極超音速兵器 開発競争過熱 中露先行 米国に焦燥感


ハイテン米統合参謀本部副議長=2019年7月、ワシントン(AFP時事)

ハイテン米統合参謀本部副議長=2019年7月、ワシントン(AFP時事)

 変則軌道で低空を高速飛行し、標的を攻撃する極超音速兵器の開発競争が各国で過熱している。従来のミサイル防衛網では迎撃困難とされる極超音速兵器は、戦いの在り方を変える「ゲームチェンジャー」になり得るとも指摘され、中国とロシアは米国の軍事的優位性を覆そうと開発に奔走。後れを取った米国は焦りをにじませる。

 ◇第1グループ

 「『スプートニクの瞬間』に極めて近い」。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は先月、中国が8月に行ったとされる極超音速兵器の実験を1957年のソ連による世界初の人工衛星打ち上げになぞらえ、開発で先んじられた驚きを表現した。

 中国は2014年から実験を開始した。建国70年に当たる19年の軍事パレードで、極超音速滑空ミサイル「東風17」を初公開。昨年、東風17を実戦配備したとされる。

 中国による8月の極超音速兵器の実験は、旧ソ連が開発した「部分軌道爆撃システム」(FOBS)との類似性も指摘されている。ロケットで打ち上げられた後、地球の低周回軌道を回り、標的に向けて滑空。米軍が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の飛行経路として警戒する北極側ではなく、南極側からの米本土攻撃も可能になる。

 軍事専門家の宋忠平氏は中国紙・環球時報で「極超音速兵器の開発では中露が第1グループ、米国は第1グループに入ろうとしている」と進捗(しんちょく)に自信をのぞかせた。

 ◇ロシアも実戦配備

潜水艦から発射されたというロシアの極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」=10月1日、バレンツ海(ロシア国防省提供の映像より)(AFP時事)

潜水艦から発射されたというロシアの極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」=10月1日、バレンツ海(ロシア国防省提供の映像より)


 ロシアも米ミサイル防衛網の無力化を狙い、開発に乗り出した。ウクライナ危機や米大統領選介入をめぐって欧米との関係が悪化する中、プーチン大統領は18年の年次教書演説で極超音速滑空ミサイル「アバンガルド」の開発を発表。「いかなる防空・ミサイル防衛手段でも対処できない」と豪語した。

 ロシアは射程1000キロ超の海上・潜水艦発射型の極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」も開発中だ。プーチン氏は今月3日、既に中部オレンブルク州のミサイル部隊に実戦配備されているアバンガルドに加え、来年からツィルコンの配備を始める意向を表明した。

 ◇新たな戦い方

 米国は2000年代、他国に先駆けて極超音速兵器の開発に着手したが、初期段階で挫折した。ハイテン統合参謀本部副議長は「米軍が過去5年程度で極超音速兵器の実験を9回行ったのに対し、中国の実験回数は数百回に上る」と明かし、自国の圧倒的軍事力に対する自負が開発意欲を鈍らせたと指摘した。陸、空など各軍が異なるタイプの極超音速兵器を開発しているが、実戦配備は数年先になる公算が大きい。

 米シンクタンク、ハドソン研究所の村野将研究員は「米ミサイル防衛網はそもそも中露の弾道ミサイル攻撃を完全に防ぐものではなく、新たに米本土に届く極超音速兵器が登場しても戦略バランスに大きな変化はない」と分析。一方、中距離射程の極超音速兵器は地域レベルの軍事バランスを不安定化させると見ている。

 中国の東風17は、西太平洋に展開する米軍や自衛隊を標的とする。村野氏は「緒戦で沖縄や西日本の基地や滑走路が破壊され、F35などの戦闘機で航空優勢を確保する戦い方ができなくなる恐れがある」と指摘。新たな迎撃システム開発にはコストが掛かるとして「日本は中国のミサイル攻撃を完全には防げないという前提で、ミサイル攻撃されても中国に勝たせない戦い方を考える必要がある」と強調した。

(ワシントン、北京、モスクワ時事)