債務引き上げ、合意不能の危機続く米国
米上院は17日のプレジデンツデー(米大統領の功績を称える日)の休日を前に、連邦債務上限を来年3月まで無条件で引き上げる法案を賛成多数で可決した。下院は可決済みで、オバマ大統領の署名を経て成立する。連邦政府が国債の利払いなどができなくなるデフォルト(債務不履行)の危機は、ひとまず回避される。
激化する与野党対立
全世界への影響力が大きい米国がデフォルトに陥れば世界経済と金融市場を混乱させかねない。デフォルト危機の背景には深刻な与野党対立がある。
野党共和党は2010年の中間選挙で下院多数派となった後、たびたび債務上限の引き上げを政治交渉に利用し、オバマ政権に歳出削減などを促してきた。昨年10月には14会計年度暫定予算の不成立で16日間にわたって政府機関が一部閉鎖され、与党民主、共和両党の対立が一層顕著になった。
こうした状況に陥ったのは、共和党の強硬な保守派「ティーパーティー(茶会)」系議員がオバマ政権の目玉政策である医療保険改革法(通称オバマケア)の骨抜きを目指したためだ。しかし、保守派の意見を制御できなかった共和党は批判を浴びた。ティーパーティーは自分たちの主張に固執して国政を混乱させるべきではない。
今回のデフォルト回避で、共和党のベイナー下院議長は、歳出削減などの条件付きの債務上限引き上げは断念する考えを示した。今年11月の中間選挙に向けた大人の対応と考えたい。だが、これで与野党対立が解消したわけではない。
対立の原因はオバマ大統領にもある。大統領は先月の一般教書演説で、議会の承認を不要とする大統領令などの権限を最大限行使する考えを明らかにした。与野党対立が激しい今の議会で重要法案を通すのは難しいためだが、こうした姿勢は共和党の反発を招いた。
米国民間の経済格差が論じられる中、大統領は大統領令によって新たに雇用する連邦政府の契約職員の最低賃金を時給10㌦10㌣に引き上げた。一方、一般の労働者の最低賃金引き上げには法改正が必要だが、実現できるか危ぶまれている。
昨年はオバマ政権の停滞を印象付けた一年だった。医療保険改革は加入受け付け用のウェブサイトをめぐって混乱が続いた。昨年の一般教書演説で誓った移民制度改革や銃規制強化も進まなかった。
外交面では化学兵器を使用したシリアへの軍事介入をいったんは決断したが、結局は事実上の撤回に追い込まれた。また、政府機関一部閉鎖の影響で、インドネシアで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合出席などが目的の東南アジア4カ国歴訪を中止。アジア重視戦略の本気度に疑問符が付いた。
指導力不足のオバマ氏
オバマ大統領の指導力不足が国政の混乱を招いている面は否定できない。このままでは、国内外の信頼を失うことになろう。中間選挙で上院でも共和党が過半数を占めるような事態になれば、レームダック(死に体)化は避けられない。
(2月16日付社説)