コロナ初期の遺伝子情報削除 米政府機関、中国研究者の要請で


起源隠蔽工作の可能性

 新型コロナウイルスの感染拡大初期の遺伝子配列データが、中国の科学者の要請により米国立衛生研究所(NIH)が管理するデータベースから削除されたことが明らかになった。新型コロナ起源の隠蔽(いんぺい)を図る中国政府の試みの一部である可能性が指摘されている。

中国湖北省の武漢ウイルス研究所=2月3日(AFP時事)

中国湖北省の武漢ウイルス研究所=2月3日(AFP時事)

 米シアトルのフレッドハッチンソンがん研究センターの著名な生物学者、ジェシー・ブルーム氏は18日に発表した論文で、241の遺伝子配列データが削除されたことを発見したと発表した。

 同氏は「削除にもっともらしい科学的な理由はない」と指摘し、「それ故、その存在を隠すために、遺伝子配列データが削除されたように思われる」と主張した。

 NIHは24日の声明で、遺伝子配列データは、中国の研究者が昨年3月にNIHのデータベースに提出した後、昨年6月に提出者からの要請を受け、削除したと発表した。この研究者は、「配列情報を更新し、他のデータベースに提出したため」、NIHのデータベースから削除するよう求めたという。

 ブルーム氏は、削除されたデータをグーグルクラウドで見つけ出し、13の遺伝子配列データを復元させた。これによると、華南海鮮市場で最初の集団感染が確認された2019年12月よりも前に、武漢やその他の地域で、流行が始まっていたことが示唆されるという。

 ブルーム氏は、中国に派遣された世界保健機関(WHO)の調査団による調査で焦点となった華南海鮮市場の患者から採取された遺伝子情報は、「流行初期の武漢のウイルスを完全に代表するものではない」とし、中国側が公表している情報に偏りがある可能性を指摘した。

 一方、新型コロナの起源については、動物由来の自然起源説と武漢ウイルス研究所からの流出説の二つがあるが、ブルーム氏は「今回の研究は、どちらの証拠も提供していない」と米メディアに語った。

 中国当局は当初、華南海鮮市場で扱われていた野生動物が新型コロナの感染源との見方を示していた。米シンクタンク、大西洋評議会のジェイミー・メッツル上級研究員はツイッターに「海鮮市場が起源であることが間違いだと示す配列情報が削除されたことは、非常に疑わしい」と投稿し、中国政府が隠蔽を図った可能性を示唆した。

 中国政府は、新型コロナの発生当初から隠蔽行為を行っており、流行初期に警鐘を鳴らした医師らを処分。さらにWHOの調査団にも初期の患者に関する生データの提供を拒否したほか、コロナウイルスに関する武漢研究所の主要なデータベースもオフラインにされている。

 ブルーム氏は論文で「今回のアプローチにより、NIHなど機関によって保存されたデータをより深く調査することで、さらなる現地調査がなくても、新型コロナの起源や早期の感染拡大についての理解を深めることができる可能性があることが示された」と強調。中国政府の協力が得られなくても、調査を進めることが可能との見方を示している。

(ワシントン・山崎洋介)