米の対北政策、謀略知略に翻弄されるな


 米国のサキ大統領報道官は、バイデン政権が進めていた対北朝鮮政策の見直し作業が完了したと明らかにした。目標を北朝鮮の完全非核化に置くことに変わりはなく、現実的アプローチで外交を通じた核問題解決を模索する方針だという。

 サリバン大統領補佐官も同様な発言をした。核・ミサイル開発をめぐり米国は北朝鮮と30年近く断続的に交渉を続けてきたが、狡猾(こうかつ)な北朝鮮の戦術に翻弄(ほんろう)されたのが実情だ。心して臨む必要がある。

 制裁の強化・履行を

 政策見直しの詳細は明らかになっていないが、具体的な非核化措置が確認されるまで対話に応じなかったオバマ政権の「戦略的忍耐」や、完全非核化の見返りに制裁を解除して一括妥結を図ろうとしたトランプ政権の「ビッグディール」とは異なるという。

 前者は北朝鮮に逆に核・ミサイル開発の時間を与えてしまった。後者も核の完全放棄など毛頭考えていなかった可能性が高い北朝鮮を相手に無理な交渉方法だった。これらの政策と一線を画すのは妥当だろう。

 バイデン政権は完全非核化という最終目標に向け、北朝鮮に非核化措置を徐々に履行させるため、両者で段階的な合意を積み上げていく考えのようだ。歴代政権の前轍(ぜんてつ)を踏むまいという慎重な姿勢はうなずける。

 ただ、金正恩朝鮮労働党総書記は体制維持と自身の既得権を懸けて核開発路線を突き進んできた。いずれ始まるであろう米国との交渉では、謀略知略の限りを尽くし完全非核化に応じようとはしないだろう。

 バイデン政権にとって、こうした北朝鮮を完全非核化に動かす有効なカードが制裁の強化と制裁履行の徹底だ。

 現在、北朝鮮は国際社会の制裁や新型コロナウイルスの感染防止に向けた中朝国境封鎖などの影響で経済が深刻な打撃を受けている。「核・経済の併進路線」を掲げる正恩氏も相当ダメージを被っているだろう。

 北朝鮮を完全非核化に誘導するには、国連安全保障理事会で決議された対北制裁を継続・強化し、制裁逃れを幇助(ほうじょ)してきた疑いのある中国などに制裁履行の徹底を呼び掛けることが不可欠だ。場合によっては、中国に本気で対北制裁に取り組ませる対中圧力も必要になろう。

 米朝交渉が始まれば、北朝鮮は例によって老朽化した寧辺核施設とその他の関連施設を廃棄する、いわゆる「寧辺プラスアルファ」案などで制裁の一部解除を求めてくる可能性がある。

 だが米国にとって重要なのは、核関連物質の生産を凍結させるため、各地に隠蔽(いんぺい)された核施設を突き止めて廃棄対象として認めさせることや、数十発あるとされる既存の核兵器を廃棄させる道筋をどう付けるかだ。現実的アプローチであったとしても、非核化措置が確認されない段階ではいかなる制裁緩和にも応じるべきではない。

 問われる文氏の姿勢

 米国の対北政策には同盟国である日本と韓国が全面的に協力する必要がある。21日の米韓首脳会談では北朝鮮に融和的な文在寅大統領の姿勢が問われることにもなる。