ペルー大統領選 6月6日に決選投票、急進左派候補の躍進に衝撃
保守派にケイコ氏支持の動き
11日に実施されたペルー大統領選挙が、予想外の展開を見せている。18人が立候補する混戦となったが、本命とみられた中道左派候補が落選する一方、泡沫候補だった急進左派のペドロ・カスティジョ氏(51)が得票率で首位に躍り出た。フジモリ元大統領の長女ケイコ・フジモリ氏(45)との決選投票が6月6日に実施されるが、保守陣営は「民主主義の危機だ」とフジモリ派を支援する姿勢も見せている。(サンパウロ・綾村 悟)
ペルー選管は19日、大統領選挙の集計が100%終了したことを発表、公式結果として教員組合出身で急進左派のカスティジョ氏と中道右派「フエルサ・ポプラル(フジモリ派)」の党首ケイコ氏の2人が決選投票に進むことを明らかにした。
カスティジョ氏の得票率は19・06%で、ケイコ氏は13・36%。カスティジョ氏の躍進は、誰もが目を疑うものだった。投票日当日まで、同氏は泡沫候補の一人にすぎず、事前の世論調査では3%前後の支持率に低迷していたのだ。現地メディアは、世論調査に反映されない地方票が集まったと分析している。
カスティジョ氏が主張する政策は過激だ。ペルー経済の柱である銅や石油など天然資源の半国有化と大規模な財政出動による貧困層支援を主張している。天然資源への国家介入には憲法改正が必要となるため、制憲議会の制定も訴えている。
だが、同氏の政策に既視感を覚える有権者は多い。南米きっての反米左派政権で知られるベネズエラとボリビアは、共に資源の国有化と貧困層支援で支持を集めると、強権的な政治体制を敷いた。ベネズエラでの制憲議会設立は独裁化を後押しした。
新型コロナウイルスのパンデミックで苦しむ南米では、貧困や格差が広がる中でポピュリズムが台頭しやすい状況にある。
また、カスティジョ氏の所属する急進左派「ペルー自由党」は、マルクス主義とペルーの思想家マリアテギが主張した「先住民の復権に根差した社会主義」に傾倒する。カスティジョ氏の躍進は、保守派に大きな衝撃を与えた。
こうした中、ペルーを代表する現代作家でノーベル文学賞受賞者のマリオ・バルガス・リョサ氏(85)が18日、スペイン紙の記事で「民主主義を守るために、決選投票ではケイコ・フジモリ氏に投票すべきだ」と主張した。
リョサ氏は、穏健保守で反共産主義の論客として知られる。1990年の大統領選挙では、自らが設立した中道右派政党から大統領選挙に出馬、フジモリ元大統領(82)と決選投票の末に敗れた経緯がある。
リョサ氏は、大統領権限の強化や議会閉鎖などの強硬手段を導入したフジモリ元大統領の政治姿勢を「反民主的だ」と批判。ケイコ氏が出馬した過去2回の大統領選挙においても、対抗馬の候補を支援し続けてきた。
そのリョサ氏は、カスティジョ氏が主張する資源国有化政策などを非難、「カスティジョ氏が当選すれば、ペルーに共産主義的な社会が訪れる」と懸念を表明している。
ケイコ氏が過去2回の大統領選挙で、決選投票まで進みながら惜敗を続けたのは、反フジモリ票が対立候補に流れたことが大きい。反フジモリを代表する言論人のリョサ氏がケイコ氏を支持し、保守派に団結を促した効果は計り知れないものだ。
ただし、ケイコ氏は、資金洗浄疑惑で検察から追及を受ける最中でもある。ペルーでは、この1年間で3人の大統領が汚職疑惑などで辞任しており、政治への不満は頂点に達しているのが現状だ。
19日に発表された最新世論調査では、カスティジョ氏が支持率42%で、31%のケイコ氏に先行している。リョサ氏の発言により、今後はケイコ氏に保守派の支持が集まる可能性が高い。
しかし、これまでの世論調査では、フジモリ派への反発や資金洗浄疑惑などを受け、ケイコ氏への投票を拒否する有権者が過半数を占めることが明らかになっている。今後は、これらの層をいかに取り込むかがケイコ氏の課題となっている。