米大リーグが球宴開催地を変更

選挙法めぐり左派が圧力
民主、黒人の「投票抑圧」誇張

 米大リーグ(MLB)がオールスターゲームとドラフトの開催地を南部ジョージア州アトランタから変更すると発表したことが波紋を呼んでいる。同州で共和党主導により先月下旬に成立した選挙関連法改正への抗議がその理由だ。反対派は改正により黒人など人種的少数派の投票が阻害されるとしているが、その主張には誇張が多く、共和党はMLBの決定に強く反発している。(ワシントン・山崎洋介)

共和は強い反発

 ジョージア州で先月25日に成立した州法改正は、全国的な注目を集め、非難の集中砲火を浴びた。

球宴開催地変更を発表した米大リーグ(MLB)コミッショナーのロブ・マンフレッド氏(UPI)

球宴開催地変更を発表した米大リーグ(MLB)コミッショナーのロブ・マンフレッド氏(UPI)

 バイデン大統領をはじめとした民主党側は、黒人の投票権を実質的に剥奪した「ジム・クロウ法」の21世紀版だとし、人種差別と結び付けて批判。リベラル派団体は、改正の無効を訴える訴訟を起こしたほか、活動家らがソーシャルメディアを通じて、同州に本拠を置く企業を標的としてボイコット運動を呼び掛け、同法に反対するよう圧力をかけた。

 これに屈する形で、清涼飲料大手コカ・コーラ、デルタ航空、保険会社アフラックなども州法改正への反対を表明。その後、MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は「MLBは原則的にすべての米国人の投票権を支持し、投票の制限に反対する」と述べ、球宴開催地の変更を発表した。

 しかし、反対派の主張には誇張が多く、投票について特別に厳しい制限がかけられるわけではない。

 まず、身元確認の強化により、身分証明書類を持つ人が比較的少ないとされる黒人の投票が阻害されると批判されている。

 だが、ジョージア州では、2008年から有権者が直接投票する際に身分証明書を提示することを義務付けている。今回の改正によって変わるのは、郵便投票について、主観が入り得る署名照合をやめる代わりに、運転免許証のID番号や社会保障番号などを示すことを要件としたことだ。指定された六つの身分証明書類のいずれも持っていない人は、無料で身分証明書を発行してもらうことができる。

 地元紙による最近の世論調査では、黒人の63%を含め、ジョージア州民の74%が身分証明書を郵便投票の要件とすることを支持した。米国では社会生活上、身分証明書の提示を求められることが多く、改正に抗議したMLBも、野球観戦チケット取得のための写真付き身分証明書類を要求しているほどだ。

 また、州法改正が投票所前の列に並んでいる有権者に食料や水を配ることを禁止したことも、批判にさらされている。

 しかし、郡当局がセルフサービスの食料と水を提供する場を設置することが認められているほか、有権者本人が持参することも可能だ。

 共和党側はこれについて、選挙運動員らが物品を与えることで有権者の投票に影響を与えないようにする措置だと説明。実際に他州にも似たような規制はあり、MLBが本拠を置く民主党色の強いニューヨーク州では、列に並んでいる有権者に1㌦の価値を超える食料と水を配給することを規制している。

 有権者の投票へのアクセスと選挙の公正性とのバランスをどう図るかについてはさまざまな議論があって当然だが、抗議を理由としてMLBが開催地変更を強行し、地元経済に打撃を与えるのは行き過ぎだろう。

 MLBによる開催地変更について「強く支持する」としたバイデン氏だが、州法改正について事実と異なる発言が民主党寄りのリベラルメディアからも指摘された。

 バイデン氏は、米スポーツ専門チャンネルESPNインタビューなどで州法改正後、午後5時に投票が打ち切られると主張。「働く人々が投票できないように、投票時間を早く終了させている」と批判した。

 ワシントン・ポスト紙は「ファクト・チェック」で、州法改正後も選挙当日、午後7時までに列に並んでいる場合は、投票することができると指摘。バイデン氏の発言について、偽りの度合いを0~4の「ピノキオ」の数で示す同紙の採点で最大となる「四つのピノキオ」との評価を下した。

 一方、同州のケンプ知事(共和党)は声明で、MLBについて「恐怖、政治的日和見主義、そしてリベラル派の嘘(うそ)に陥っている」と批判。トランプ前大統領は、支持者にMLBやコカ・コーラなどへのボイコットを呼び掛けている。