欧州観光産業 ワクチン接種で業績回復に期待
欧州は毎年、夏の長期バカンスシーズンに多くの人々が、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャなど南欧諸国を目指す。観光産業従事者は夏には大半の人々が新型コロナウイルスのワクチン接種を終えると思われ、業績回復に期待を寄せている。
フランスでは3日から全土で外出制限措置が実施されている一方、今週末までに1000万人のワクチン接種を目指し、政府は全国200カ所の体育館やスタジアムを接種会場にしてワクチン接種を進めている。ただ、フランスを含む欧州連合(EU)ではワクチン接種が当初の予定より、かなり遅れている。
6日時点で、Our World In Dataによれば、EU内で最低1回の接種を終えた人が最も多いハンガリーで国民の25・2%、フランスは13・6%(4月4日)、イタリアは12・8%と、英国の46・5%にははるかに及ばない状況だ。
英国では、ワクチン接種完了者や抗体検査などで陰性が確認された人に試験的に証明書を発行し、ワクチンパスポートのシステム導入の検討に入っている。英国ではパスポート使用が国外旅行だけでなく、国内の映画館やコンサート、スポーツ観戦から、パブやレストランでも有効と前向きな人もいる一方、差別や不公平につながるとの批判もある。
現時点では、多くのEU諸国が、国外への移動を禁止するか、自粛を呼び掛けており、帰国する旅行者は到着時に検疫が義務付けられている。観光への依存度の高いギリシャでは今後、外国人観光客を受け入れようと意欲を示している。
国連世界観光機関(UNWTO)は、2020年の世界全体の海外旅行者数は19年から74%減少し、国際観光収入損失は計1兆3000億ドル(約143兆円)に達したとしている。世界の観光市場は30年前のレベルに落ちたとしており、19年の水準に戻るには2年半から4年ほどかかる見通しだとUNWTOは指摘している。
EUは、EU共通のワクチン接種のデジタル証明書「グリーンパス」を夏までに導入する方針で検討中だが、ギリシャのミツォタキス首相は、パスの早期導入をEUに迫っている。南欧は総じてグリーンパス導入への期待感が高く、バカンスで南欧を目指すEU諸国の人々も導入に前向きだ。
(パリ 安倍雅信)