治安悪化する米国、背後にソロス氏の影
《特報》
米国の都市部では殺人の急増など治安悪化が顕著になっているが、その背後でちらつくのが国内外で過激な左翼運動を支援する著名投資家ジョージ・ソロス氏の影だ。ソロス氏は近年、警察組織を敵視する極左の地方検事を各地で当選させており、これが犯罪を助長していると指摘されている。(編集委員・早川俊行)
カネで極左検事を送り込む
全米で6番目に人口が多い東部ペンシルベニア州フィラデルフィア。地元警察関係者の間では最近、こんな言葉が合言葉になっている。
「地方検事をクビにしよう」――。
警察関係者が政治団体を設立してまで追い出そうとしているのがラリー・クラスナー地方検事だ。警察と検察がここまで対立するのは異常事態である。
連邦制の米国では、連邦と地方でそれぞれ独立した検察組織が存在する。連邦検事は大統領が任命するのに対し、地方検事は選挙で選ばれる。
クラスナー地方検事は、2017年にソロス氏が政治団体を通じて145万㌦(約1億6000万円)の選挙資金を提供して初当選した“ソロスチルドレン”の一人。地方検事になる前は、左翼団体などの代理人としてフィラデルフィア市警を75回も提訴した経歴を持つ、筋金入りの反警察弁護士だ。
クラスナー氏が就任した18年以降、フィラデルフィアでは治安が急速に悪化している。17年に315件だった殺人事件は昨年、499件へと跳ね上がった。
昨年は、新型コロナウイルス禍に伴う社会不安や中西部ミネソタ州で起きた黒人暴行死事件を発端とする激しい抗議活動など、特殊な要因が重なったことが凶悪犯罪を助長したことは確かだ。だが、犯罪者を積極的に訴追しないクラスナー氏の方針が、犯罪抑止力を著しく低下させていることは間違いない。
19年3月には、フィラデルフィア市警の特殊部隊(SWAT)隊員が黒人男性との銃撃戦で射殺される事件が発生した。犯人は地元警察が以前から危険視していた人物で、薬物不法所持などで収監する機会が何度もあったにもかかわらず、クラスナー氏がそれをしなかった結果、悲劇は起きた。地元警察がクラスナー氏を敵視するのは、仲間を殺されたという恨みもある。
全米に吹き荒れた「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」運動により、現場の警官は警察を蔑視する社会風潮に苦しめられているが、警察を人種差別主義者と中傷するクラスナー氏がこの風潮をさらに煽(あお)っている。5月に行われる民主党の地方検事候補予備選でクラスナー氏を落選させようと警察関係者が死に物狂いになっているのも無理はない。
世界有数の大富豪であるソロス氏は長年、左派政治家や過激な左翼団体などに多額の資金をばらまいてきたが、数年前から力を入れているのが地方検事選だ。注目度の低い地方検事選に必要な選挙資金は数万㌦程度とされ、そこにソロス氏が100万㌦前後の資金を流し込めば、意中の候補を高い確率で当選させることができる。つまり、地方検事のポストをカネで買っているに等しい。
フィラデルフィアの他にも、ロサンゼルス、シカゴ、サンフランシスコ、ボストン、セントルイスといった主要都市を管轄する地方検事が現在、ソロスチルドレンで占められている。
法秩序の破壊狙うソロス氏
ソロス氏が支援する地方検事に共通するのは、犯罪者を人種差別的な警察の被害者と捉えていることだ。彼らはその異常な政治的信念に基づき、犯罪者に対する求刑を軽くし、軽犯罪であれば訴追を見送り、保釈金も引き下げるか、そもそも設定しない。このため、警察が懸命に犯罪者を捕まえても、すぐに街に戻ってきて、再び罪を犯すということが繰り返されている。
これは、軽犯罪を厳しく取り締まることで犯罪全般を抑止できるというルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が取り入れて成果を挙げた「割れ窓理論」とは、真逆のアプローチである。
刑事司法制度を変えるには、本来、同じ考えを持つ政治家を数多く当選させ、法改正する必要がある。このプロセスを迂回(うかい)する手段として、ソロス氏が目を付けたのが地方検事だ。各地に極左の地方検事を送り込み、意に沿わない法律の執行を拒むことで、刑事司法制度を自分たちの望むように変えようとしているのである。
検事が法律に従わず、独断で法執行を拒むことは、法秩序を破壊する行為にほかならない。だが、クラスナー氏の落選運動を展開する政治団体を立ち上げた元警官のニック・ジェレイス氏によれば、秩序の破壊こそが彼らの狙いなのだという。
ジェレイス氏は、ワシントン・タイムズ紙の取材に「彼らは街を不安定にしたいのだ。それをまさに実行している。ソロス氏の地方検事がいる都市を見てほしい。完全なカオス(混沌〈こんとん〉)だ。これこそが彼らの望む状態なのだ」と述べている。
ロサンゼルスでは昨年11月、ソロス氏の政治団体から150万㌦以上の支援を受けたジョージ・ガスコン氏が地方検事に当選。就任早々、犯罪を厳しく訴追しない方針を打ち出したことが被害者らの反発を招き、既にリコール運動が起きている。また、3度目の重罪では刑が加重される「三振即アウト法(三振法)」の適用を見送ったガスコン氏に対し、反発する部下の検事補が訴訟を起こすという異例の事態になっている。
ソロス氏系の検事が管轄する都市では凶悪犯罪が多発している。セントルイスでは昨年、過去2番目に多い262件の殺人が発生し、人口10万人当たりの殺人発生率は過去半世紀で最悪の87件に上った。シカゴも昨年、774件の殺人が発生し、19年の506件から53%増という大幅な伸びを記録した。
バイデン民主党政権で副大統領を務めるカマラ・ハリス氏もかつて、サンフランシスコ地方検事を務めた。そこから州司法長官、上院議員へと政治家キャリアを切り開いていった。ソロス氏が地方検事を積極的に支援するのは、有力政治家を育成することも視野に入れている可能性が高い。