文政権、北の戦術核を軽視?
ミサイル発射への対応後手
進まぬ迎撃体制の強化
先週、北朝鮮が黄海と日本海に向けて発射した短距離ミサイルをめぐり、韓国・文在寅政権の対応が後手に回っているとの批判が上がっている。特に今回の発射は金正恩朝鮮労働党総書記の肝煎りである「戦術核の開発」の一環で、ミサイルの射程などからも「露骨な韓国への挑発」(韓国軍事専門家)であることは明らか。不甲斐ない韓国の態度は日米の不信を一層買いそうだ。
(ソウル・上田勇実)
軍首脳部の政治化も
韓国軍当局は今月21日に北朝鮮が黄海に向けて2発の巡航ミサイルを発射させた事実を把握していたにもかかわらず、「情報収集能力を秘匿する必要性」などを理由に即時に公表せず、海外メディアが報じた後にそれを追認した。
また25日には日本海に向け短距離弾道ミサイル2発が発射されたが、発射後4時間も経過してから韓国合同参謀本部が「弾道ミサイルの可能性に重きを置いて分析中」とのコメントを出した。日本で即座に緊急ニュースとして国民に周知されたのとは対照的だ。
この日、韓国の国家安全保障会議(NSC)常任委員会も緊急招集されたが、発表は報道資料という形を取り、しかも短距離弾道ミサイルと言わずに「短距離発射体」という表現を用いた。弾道ミサイルは国連安全保障理事会の対北制裁決議に違反するため、北朝鮮を追い詰めないよう意図的に「弾道ミサイル」という表現を避けたのではないかとの見方すら出ている。
これまでも北朝鮮に融和的な文政権は武力挑発に弱腰だった。だが、今回は脅威の度合いが異なり、弱腰では済まされないと韓国の専門家は警鐘を鳴らす。戦場単位で通常兵器の延長線上での使用を想定した核兵器、いわゆる「戦術核」の一環と北朝鮮が見なしている可能性があるためだ。
北朝鮮核問題に詳しい金泰宇・元統一研究院長はこう指摘する。
「今回発射された短距離ミサイルに将来的に小型・軽量化された弾頭を搭載すれば韓国を核攻撃できる。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発も進んでいるとみるべきで、これらは1月の党大会で金正恩氏が宣言していた戦術核の開発を実行に移したもの。韓国が直面する北朝鮮による戦術核の脅威は今後増大し続けるだろう」
当然、韓国軍はこうした北朝鮮による戦術核の脅威を十分把握しているはずだ。それでも対応が後手に回り、結果的に戦術核を軽視するかのごとき印象を与えているのは「北朝鮮の顔色をうかがう政権に歩調を合わせる軍首脳部の政治化など、政治が安保に優先される軍綱紀の乱れにも原因がある」(金元院長)ようだ。
今回発射されたミサイルは低空飛行で変則的な軌道を描き、迎撃が難しいロシアの弾道ミサイル「イスカンデル」の改良型である可能性があるという。北朝鮮は多弾頭化の開発にも意欲を示している。
迎撃困難な新型兵器に北朝鮮が力を入れる中、韓国は現在、弾道ミサイル迎撃用に米軍が韓国・星州(南部)に配備した高高度防衛ミサイル(THAAD)の追加配備さえもたついている。アンテナ電波の悪影響などを理由とする地元住民の反対運動などを口実に文政権が事態を放置している。
北朝鮮にとって戦術核はあくまで「韓国への核攻撃能力をちらつかせ、バイデン米政権との交渉で主導権を握るための脅迫カード」(元韓国政府高官)として使うつもりだろうが、それにしても文政権の安保意識のなさには驚かされる。