対中強硬路線「継承」、拭えぬ後退への懸念


 バイデン米政権は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰など「脱トランプ」の動きを進めるが、対中政策に関しては、大方の専門家の予想通り、当面はトランプ前政権の強硬策が概(おおむ)ね継承されそうだ。

19日、米上院外交委員会で行われた国務長官指名公聴会で証言するアントニー・ブリンケン氏(UPI)

19日、米上院外交委員会で行われた国務長官指名公聴会で証言するアントニー・ブリンケン氏(UPI)

 「トランプ氏の中国への厳しい対応は正しかった」

 国務長官に指名されたブリンケン元国務副長官は19日の指名公聴会で、前政権の強硬政策を維持する考えを表明。競争相手と見なす中国を「打ち負かすことができる」と強調した。国防長官となったオースティン元中央軍司令官も指名公聴会で、中国を「最優先事項」に位置付け、米軍の優位性を維持する考えを示した。

 中国に対する強硬方針が、米国で党派を超えたコンセンサスであることを改めて印象付けた形だ。

 一方、中国は早速、バイデン政権の本気度を試そうとしている。台湾国防部によると、24日には、軍用機15機が台湾の設定する防空識別圏に一時侵入。23日にも13機の侵入が確認され、10機を超える規模での2日連続の飛行は異例だ。

 バイデン政権は、中国の問題行動に対しては民主国家と連携して国際ルールの順守を求め、人権問題では厳しい姿勢で臨む方針を示す一方、優先課題に位置付ける気候変動対策や新型コロナウイルス対応などについて協力を模索する考えだ。

 これに対し中国は、米国との協議に応じるのと引き換えに、トランプ前政権時代の強硬策の一部を取り下げるよう求めることが考えられる。対中協調志向が強いケリー気候問題担当特使らの影響力が政権内で強まることで、地域覇権を狙う中国との対決姿勢が後退する懸念は拭えない。

 サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)とホワイトハウスに新設されたインド太平洋調整官のキャンベル氏は、2019年にフォーリン・アフェアーズ誌で、「米国にとって好ましい形での中国との共存」を主張した。だが、米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は昨年11月の報告書で、中国が「覇権を目指す野心を激化させた」と警告しており、こうした国と「共存」できるのか疑問だ。

 バイデン氏にとって、最初の外交上の試練となり得るのが、北朝鮮問題だ。専門家の多くは、北朝鮮がバイデン政権を揺さぶるため、近く核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射などの挑発行為に出る可能性を指摘する。

 バイデン政権は今後、北朝鮮政策の全面的な見直しを進める考えだが、核軍縮や核拡散防止に焦点を当てる「軍備管理」交渉を進める可能性も浮上している。ブリンケン氏は19年にCBSニュースで「近い将来の完全非核化は現実的でない」として、軍備管理も選択肢の一つとの考えを示した。だが、これは事実上、核保有を容認することになりかねず、今後の議論の行方を注視する必要がある。

 沖縄県尖閣諸島についてバイデン氏は、対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象になると明言した。ただ、バイデン氏を含め政権幹部の多くは、南シナ海の軍事要塞(ようさい)化を許したオバマ元政権のメンバーであり、中国に断固とした姿勢を取れるかが懸念される。

 元米太平洋艦隊情報部長のジェームズ・ファネル氏は、中国を牽制(けんせい)するため「尖閣諸島周辺で米海軍と共同訓練」をすべきだと主張する。日本はこうした米国との連携強化を働き掛けていくことが求められる。

(ワシントン・山崎洋介)