左派勢力 政策実現へ圧力、中道路線を維持できるか
「フィリバスター(議事妨害)は、人種隔離政策時代の遺物だ」
40以上の左派系団体から成る「ジャスト・デモクラシー」は25日、米ニューヨーク・タイムズスクエアの屋外広告でオバマ元大統領の発言を引用し、ニューヨーク州選出のシューマー上院院内総務(民主党)に、議事妨害を廃止するよう求めた。
上院では民主、共和両党は各50議席だが、上院議長を兼ねるハリス副大統領が決定票を投じることができるため、民主が上院の主導権を握る。だが議事妨害により、一部を除いて法案の可決に60票が必要となるため、民主党の掲げる政策の多くは実行が容易でない。
そのため左派勢力は、上院で多数派のトップとなったシューマー氏に対し、議事妨害を廃止するよう圧力を高めているのだ。
屋外広告ではオバマ氏のほか、急進左派の若手で同州選出のオカシオコルテス下院議員が議事妨害について、「人種分離主義者の貴重なツールだ」と批判するコメントも引用。黒人差別と結び付けることで議事妨害を非難の標的とし、撤廃への機運を盛り上げる狙いだ。
だが議事妨害の起源は、黒人差別とは全く関係がない。米シンクタンク、ブルッキングス研究所のサラ・バインダー上級研究員によると、19世紀初頭、当時の副大統領が上院で議事妨害を打ち切る規則を誤って削除したことが始まりで、偶然の産物にすぎない。
左派勢力の真の狙いは、温暖化対策「グリーン・ニューディール」、国民皆保険「メディケア・フォー・オール」、公立大学の学費無償化など急進的な政策実現の道を開くことであることだ。これが実現すれば、米国の左傾化が一気に進む恐れがあるため、共和党側は強く警戒している。
共和党のマコネル上院院内総務は、シューマー氏との今後の上院の議会運営をめぐる協議の中で、議事妨害を維持するよう要請。一方、シューマー氏は議事妨害の温存は保証できないとして一時協議が難航した。
オカシオコルテス氏は、2022年の同州上院予備選で、シューマー氏に挑戦することを検討していると伝えられる。オカシオコルテス氏は18年の下院予備選で、同党ナンバー4だった当時のクローリー下院議員を破る番狂わせを演じて一躍脚光を浴びた。「第二のクローリー」になることを恐れるシューマー氏は、左派寄りのスタンスを取るようになっている。
だが、議会妨害の廃止は、現状では民主党から一人でも造反すれば廃止にできないため、当面は実現の可能性は低い。保守色の強いウェストバージニア州選出のマンチン上院議員ら2人がすでに反対する考えを表明している。
「中道保守の民主党員」を自称するマンチン氏は昨年11月、上下院選で民主党が振るわなかったのは、急進左派議員らが「警察予算を打ち切れ」という「狂った社会主義的政策」を支持したからだと厳しく批判。党の左傾化に対して危機感を示している。
一方、バイデン大統領は、議会妨害の廃止を支持しない立場を示しつつも、共和党の対応次第では考えを改める可能性があるとも述べている。来年の中間選挙で、民主党が上院の議席を伸ばせば現実味が出るだろう。
バイデン氏は、「LGBTQ(性的少数者)差別禁止」の大統領令に署名するなど左派の政策を推進しつつ、閣僚人事では中道派を積極的に用いている。左派勢力からの圧力が強まることも予想される中、今後どちらの路線に傾くのかが注目される。
(ワシントン・山崎洋介)