コロナ第2波に苦しむブラジル

変異種に抗体無効の可能性

 ブラジルは昨年5月に世界保健機関(WHO)から「新型コロナウイルス流行の中心地」に指定され、各地で増え続ける埋葬地の映像は、国内外に衝撃を与えた。同12月以降は、変異種の登場を含む感染拡大「第2波」に苦しんでおり、ワクチン接種が最後の頼みとなりつつある。(サンパウロ・綾村 悟)

遅れるワクチンの原料輸入
中国が保守政権に意趣返しか

 累計感染者数で世界3位のブラジルでは、今月に入ってから連日のように6万人を超える新規感染者と1000人を超える死者が出ている。

18日、ブラジル・リオデジャネイロで行われた中国製の新型コロナウイルスワクチンの予防接種(AFP時事)

18日、ブラジル・リオデジャネイロで行われた中国製の新型コロナウイルスワクチンの予防接種(AFP時事)

 特に、今月初めに日本への渡航者4人からウイルスの変異種が発見された北部アマゾナス州では、州都マナウス市などで病院の収容能力をはるかに超える感染者が殺到。病院の入り口で入院を断られて泣き叫ぶ患者の家族や、入院を待つ間に死亡する重症患者の様子など、衝撃的な映像がメディアで報じられた。

 医療崩壊に直面しているのは同州だけではない。同国最大の都市サンパウロや首都ブラジリアなども、感染者が現在のペースで増加すれば、今後数週間で重症者用の病床が足りなくなると警告している。

 加えて、アマゾナス州で発見された変異種は、より高い感染率が報告されているイギリスや南アフリカ株と同様の変異性が認められており、昨年12月以降に同州で確認された感染者の約4割から、この変異種が見つかっている。

 昨年12月に既存の新型コロナに対する抗体があることを確認したばかりの女性が、その8日後に変異種に感染したことが分かった。抗体が変異種には無効となる可能性が懸念されている。

 実際、アマゾナス州では、昨年10月に実施された大規模な抗体検査で、市民の約7割が抗体を持っていることが確認され、集団免疫を獲得したとして学校再開などの措置が取られていた。そのアマゾナス州で「第2波」の大規模な感染拡大が発生したのだ。

 各地で感染が広がる中、より厳しい隔離措置を導入する自治体が増えている。しかし、商業活動の制限が経済に与える影響は甚大だ。

 それだけに、感染拡大を抑制する効果的手段は、ワクチンの大規模接種以外にはない、との認識が広がっている。ワクチンが変異種にも効果があることは確認されつつある。

 こうした中、17日からブラジル全域で、高齢者と医療従事者らのワクチン接種が開始された。中国のバイオ企業シノバク社の「コロナバック」と英アストラゼネカ社の2種類のワクチンが当局から認可済みだが、問題は今後の供給だ。

 両ワクチン合わせて800万回分(400万人分)がすでに輸入済みだが、今後の国内生産に必要な原料の輸入が滞っているのだ。

 コロナバックの原料は、中国政府機関による輸出認可が遅れている。中国側は「事務処理の問題だ」と説明しているが、一部のブラジルメディアは中国政府による「ワクチン外交」の影響を懸念している。

 保守派のボルソナロ大統領は、トランプ前米大統領と親密で、「新型コロナは中国が世界にばらまいた」と批判。中国製ワクチンに関しては「中国のモルモットになるつもりはない」と、導入に反対してきた経緯がある。

 また、昨年7月に中国で開催された中南米諸国を対象としたワクチンの説明会では、多くの国が外交団を派遣したが、ブラジルはこれを見送った。ブラジルのアラウジョ外相は特に中国嫌いで知られており、原料輸出認可の遅れは、ボルソナロ政権への「意趣返し」ではないのか、との懸念が出ているのだ。

 南米では、アルゼンチンやペルー、ボリビア、ブラジルなど多くの国が中国やロシアのワクチンを採用し、すでに接種を開始している。中国はワクチン導入のための資金供与も行うなど、「ワクチン外交」では欧米各国に抜きんでた存在感を見せつけている。