米国の対北政策 非核化迫る強い姿勢に期待


 新たに発足したバイデン米政権が北朝鮮に厳しい姿勢で臨む意向を明らかにし始めた。米国には、トランプ前大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と3回も首脳会談をしながら、北朝鮮の非核化が一歩も進まなかったという苦い経験がある。同じ轍(てつ)を踏んではなるまい。

 新しいやり方を模索

 サキ米大統領報道官は、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルについて「世界の平和と安全保障にとって深刻な危機」であり、その抑止は日米両国にとって「死活的な利益であり続けている」と指摘。米国や同盟国の安全に向け、これまでの政策を検証して新しい戦略を導入すると表明した。

 トランプ氏が正恩氏とトップダウン式に進めた非核化交渉をやめ、非核化を迫る新しいやり方を模索する考えを明確に示したものだ。

 またオースティン米国防長官は岸信夫防衛相と電話会談し、北朝鮮の全ての大量破壊兵器とあらゆる弾道ミサイルを完全かつ検証可能で不可逆的に廃棄させることで連携していくことを確認した。

 これまで正恩氏は寧辺の核施設など一部の核廃棄を自分たちが応じられる「非核化」と位置付けてきたが、米国の新政権として今後は完全非核化を求めるという厳しい姿勢を鮮明にさせたものと言える。

 予想通り、バイデン政権は北朝鮮非核化に毅然(きぜん)と臨もうとしている。相手の政治的思惑を巧みに利用し、見せ掛けの非核化で制裁緩和を引き出そうとする北朝鮮のしたたかな戦術に惑わされないためにはそうするしかない。

 ただ、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ元政権下で「戦略的忍耐」と称し、事実上、北朝鮮との交渉を拒み続けた政策を復活させられるかは疑問だ。北朝鮮の核攻撃能力が格段に向上し、米国に対する北朝鮮の脅威が増大したためだ。

 北朝鮮非核化に本気で取り組むには、これまで以上の制裁強化が必要だ。

 北朝鮮は国際社会の経済制裁下にあっても、極度の国内引き締めや中国の後ろ盾などで体制維持を図ってきた。海上の違法な船荷の積み替えである「瀬取り」による密輸が横行し、外貨不足を補うため近年は仮想通貨の奪取を狙ったサイバー攻撃も頻発している。

 中途半端な非核化措置の見返りとしてその都度、制裁緩和に応じていたのでは、逆に北朝鮮が制裁下でも独裁政権を延命させる可能性を高め、結果として非核化は遠のくだけだ。

 米国務省では、北朝鮮政策調整官や北朝鮮核問題をめぐる6カ国協議の首席代表などを務めた人たちが幹部として起用された。いずれ再開するだろう北朝鮮との交渉ではその手腕が試される。心して臨んでほしい。

 会談ありきで臨むな

 米国の対北朝鮮政策では、日本はもちろん韓国との連携も不可欠だ。

 しかし北朝鮮に融和的な文在寅政権が、再び米朝会談の仲介役を果たすことばかりに腐心するのではないかと懸念される。文氏には会談ありきではなく、非核化ありきで臨んでほしい。