バイデン氏就任、社会分断の深刻化で前途多難
ジョー・バイデン氏が第46代米大統領に就任した。4年ぶりの民主党政権誕生だ。ケネディ元大統領以来のカトリック系大統領で、歴代最高齢である78歳の就任となる。
就任式の演説では「すべての国民を団結させることに全霊をささげる」と誓った。しかし米社会の分断は昨年の大統領選で一層深刻化し、前途は多難だ。
未解明の選挙不正疑惑
就任式は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で規模を大幅に縮小。連邦議会議事堂周辺にはバリケードが築かれ、約2万5000人もの州兵がワシントンに動員されるなど異例の事態となった。
バイデン氏は演説で、新型コロナと深刻化する社会の分断を「歴史的な試練」と位置付け、共和党と民主党、地方と都市、保守とリベラルの「野蛮な戦争」に終止符を打たねばならないと語った。
だが、党派対立の根は深い。これはトランプ前大統領が就任式に参加しなかったことにも表れている。退任する大統領の欠席は152年ぶりで、トランプ氏は首都ワシントン近郊にあるアンドルーズ空軍基地で退任式典に出席した。
国民分断の雰囲気の中での厳しい船出だ。バイデン氏はトランプ氏支持者の議会乱入について「暴力を用いて人々の意思を封じ、民主主義を妨害しようとしたが実現しなかった」と非難した。暴力が決して許されないのは、もちろんである。
ただ乱入が起きた背景には、バイデン氏の大統領選不正疑惑がいまだに解明されていないことがある。米紙ワシントン・ポストの世論調査では、62%が「バイデン氏は正当に大統領に選ばれた」と回答したが、共和党支持層では7割が「正当ではない」と答えている。バイデン氏自身が米社会分断の一因となっているのだ。
副大統領にカマラ・ハリス氏が就任したことも懸念が残る。女性初、黒人初の副大統領で、多様性を重視するバイデン政権を象徴する人物だ。しかしハリス氏はかつて、左派のサンダース上院議員が提唱した公的医療保険制度の全国民拡大法案や、急進的な温暖化対策の決議案などの共同提案者となったことがある。政権内で左派の影響力が強まりかねず、これも保守派の反発を招きそうだ。
バイデン氏はホワイトハウス入りした後、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」復帰の手続きを進める文書に署名。世界保健機関(WHO)脱退の手続き取り下げも命じるなど、トランプ氏の「米国第一主義」からの脱却をアピールした。
対中強硬方針貫けるか
外交面では中国に対する姿勢が問われよう。トランプ前政権はこれまでの関与政策を転換し、制裁関税や中国企業排除などで圧力をかけた。
中国との対立は、ポンペオ前国務長官が習近平国家主席を「破綻した全体主義的イデオロギーの信奉者」だと糾弾したように、イデオロギー対決の側面も色濃い。バイデン氏も対中強硬政策を取る方針を示しているが、民主主義陣営を代表する米国の大統領としてこの方針を貫けるかが焦点となる。