コロナ第2波に苦しむブラジル

感染者700万人以上 失業率は14%超

 新型コロナウイルスの感染「第2波」が南米ブラジルを襲っている。一時は感染ピークが過ぎたと思われたが、ここに来て1日当たりの新規感染者が過去最多を記録しており、政府と各自治体が対応に追われている。失業率が14%を超えるなど、社会・経済への影響も甚大となっており、一刻も早いワクチン認可と接種開始が望まれている。(サンパウロ・綾村 悟)

ワクチン接種開始に遅れ
ボルソナロ大統領「国民の義務でない」

 ブラジルの総感染者数は、21日時点で世界3位の726万3619人で、世界の総感染者数(7734万人)の約1割に相当する。死者数も18万7291人で世界2位だ。

集中治療室で治療を受けるブラジルの新型コロナウイルス患者=9日、南部ポルトアレグレ(AFP時事)

集中治療室で治療を受けるブラジルの新型コロナウイルス患者=9日、南部ポルトアレグレ(AFP時事)

 ブラジルで初めて感染者が出たのは2月下旬。翌月から一気に感染が増加すると、世界保健機関(WHO)が「パンデミックの中心」として警戒、第1波のピークとなる7月には、1日当たり7万人弱の感染者を出していた。感染者が集中したブラジル最大都市のサンパウロでは、サッカー競技場を野戦病院として活用する事態となった。

 その後、地方自治体が中心となって導入した厳格な隔離政策により、9月には新規感染者が激減し、ワクチン導入まで小康状態が続くと思われていた。しかし、商業・社会活動を順次再開した11月から感染者が急増、12月には連日、7万人近い感染者を数える「第2波」の襲来となった。

 各自治体が急遽(きゅうきょ)、商業活動の制限措置などを導入しているが、感染拡大に歯止めがかからない。欧州で変異種が猛威を振るい始めたことも含め、医療関係者から来年はより厳しい事態を迎えるとの見方が出ている。

 こうした中、待ち望まれているのがワクチンだ。パンデミックの中心地であるブラジルには、英国や米国、中国、ロシアなど世界中のワクチン開発企業が治験場を求めて殺到した。その利点としてブラジルは、先進国以外では異例とも言えるほどワクチン供給で優先的な契約を結んでいる。

 中国シノバク社をはじめとして、すでに相当量のワクチンがブラジル国内で確保されているほか、英アストラゼネカ社のワクチンなどが技術供与を受けたブラジル国内で生産されることになっており、最終的には南米諸国への輸出拠点になる予定だ。

 問題となっているのが、ワクチン供給の開始時期だ。保健省は当初、早ければ12月、もしくは来年1月から高齢者や子供、医療関係者を対象とした接種を開始すると発表していたが、最近になって2月から開始すると訂正した。ワクチン認可に必要な治験データの遅れなどが理由とされるが、英国や米国では緊急認可の下で接種が始まっており、スケジュールの遅れには批判も出始めている。

 ボルソナロ大統領は、来年中に国民の3分の1以上にワクチンを準備できると言明、最終的には国民全員にワクチンを無料で提供することが可能だと断言している。その緊急予算を確保するための大統領令は署名済みだ。

 ボルソナロ氏本人は、ワクチン接種は受けないと述べ、国民に対しても「義務ではない」と強調している。ただ、最高裁は17日、「ワクチン接種は必ずしも義務ではない」ことを前提とした上で、地方自治体が公共施設の利用等にワクチン接種を条件とする条例を出すことは可能だとの判断を示した。社会活動への参加条件として、ワクチン接種が必要になるということだ。

 ブラジルでのコロナ禍による被害は甚大だ。失業率が14%以上の高止まりを見せる中で、ボルソナロ政権の支持率を支えてきた貧困層、零細企業向けの緊急援助金が12月末で打ち切られる。