米国、コロナワクチン年内にも実用化 トランプ政権、官僚主義を打破

 新型コロナウイルスのワクチンが米国で年内にも実用化する見通しとなった。研究開発への支援に加え、官僚主義を打破し承認手続きの迅速化を図ったトランプ政権の取り組みを評価する声も上がるが、リベラルメディアはその功績を認めようとしない。
(ワシントン・山崎洋介)

功績認めぬメディア
「ワープ作戦」で迅速な開発に成功

 米製薬大手ファイザーと米バイオ企業モデルナは先月、開発中の新型コロナワクチンについて、期待を大きく上回る90%以上の有効率を示したと相次いで発表した。これは、米国内で第3波による感染拡大に歯止めがかからない中、終息への希望をもたらすニュースとなった。

11月13日、新型コロナウイルスのワクチン開発を促進する「ワープスピード作戦」について記者会見するトランプ米大統領(UPI)

11月13日、新型コロナウイルスのワクチン開発を促進する「ワープスピード作戦」について記者会見するトランプ米大統領(UPI)

 両社のワクチンは、遺伝子情報を細胞に伝達する「メッセンジャーRNA(mRNA)」という画期的な新技術を用いた。今回の成果は主に両社の企業努力によるものだが、2021年1月までに安全で効果的なワクチンの提供を目指すトランプ政権の「ワープスピード作戦」が果たした役割も無視できない。

 同作戦は、ワクチンの研究開発や製造、ワクチン購入契約のため約100億㌦(約1兆400億円)を投じ、通常は数年はかかるワクチン開発を官民の連携により短期間で実現する計画で、今年5月に発表された。

 トランプ政権は7月、ファイザーと食品医薬品局(FDA)による承認を前提に、少なくとも1億回分のワクチンを15億2500万㌦で購入することで合意した。

 モデルナについては、政府はワクチン開発のために9億5500万㌦を援助。また、承認された場合に少なくとも1億回分のワクチンを15億2500万㌦で購入する契約を結ぶなど、全面的に支援した。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は11月17日付の社説で、トランプ政権がFDAの官僚的でリスク回避的な文化の改革を推進することで承認手続きを加速させ、「フェーズ3の治験が3年から数カ月に短縮された。こうした改革は、政府の新型コロナ対応のサクセスストーリーの一つだ」と評価した。

 しかし、リベラルメディアはワクチン開発がトランプ政権の功績だと認めたくないようだ。事実に反し両社がワープスピード作戦に参加していることを否定する報道が目立った。

 ワシントン・ポスト紙(電子版)は11月9日、「いいえ、ファイザーの成功はトランプの『ワープスピード作戦』によるものではない」との見出しの記事で、「ファイザーは競合他社と異なり同作戦に参加しなかった」と伝えた。しかし、同社は研究開発に対する援助を直接的に受けていないものの、同作戦の枠組みの中で政府とのワクチン購入契約があり、それが開発の重要なインセンティブとなったと考えられる。

 またMSNBCテレビの司会者ジョイ・リード氏は11月17日の番組で、ワクチン開発におけるトランプ政権の取り組みを称賛する共和党議員らの発言について、「手短にファクトチェックしたい」と切り出し、「これらのワクチンメーカーはワープスピード作戦に関与していない」と全く事実と異なる主張を展開。議員らの発言について「それは嘘(うそ)だ」とまで言い切った。

 大統領選前からメディアの多くは、トランプ氏の早期に新型コロナワクチンの開発が可能という見通しについて、繰り返し懐疑的な見方を示してきた。

 NBCニュースは8月、共和党全国大会でトランプ氏が「年末までにワクチンを生産できる」と述べた発言をファクトチェック。「十分な証拠がない」との理由で「おおむね間違い」と決め付けた。

 しかし、ワクチンが近く承認されれば当時楽観的とも思われたトランプ氏の見通しは、妥当だったことになる。大方の予想を覆す異例の速度でワクチン開発を促したトランプ政権の取り組みは特筆すべきものがあるが、それを功績として認めたがらないリベラルメディアの反トランプの報道姿勢も改めて浮き彫りになっている。