米民主党 最高裁判事増員案が浮上
トランプ米大統領が先月、連邦最高裁判所判事にエイミー・バレット連邦高裁判事を指名したことを受け、民主党内で、政権奪還後に最高裁判事の定員を増やす案が浮上している。この案には司法への国民の信頼を失墜させる恐れがあるが、民主党大統領候補のバイデン前副大統領は立場を曖昧にしており、共和党側は批判を強めている。(ワシントン・山崎洋介)
司法の信頼揺るがす恐れ
バイデン氏は立場を曖昧に
リベラル派のギンズバーグ連邦最高裁判事が先月中旬に死去したことを受け、その後任をめぐり与野党の対立が深まり、11月の大統領選に向け大きな争点の一つとなっている。
後任に保守派のバレット氏が就任すれば、最高裁は計9人の判事が6対3で保守派優位の状況となる。民主党は大統領選後に指名手続きをすべきだと主張しているが、53対47で共和党が過半数を占める上院で指名承認を阻止するには、少なくとも4人の造反が必要で、困難とみられている。
そこで、まずは大統領選の勝利に加え連邦議会上下両院で多数派を握り、民主党による「統一政府」を確立。その上で最高裁判事の定員を増やし、リベラル派判事を送り込む「コート・パッキング」案が対抗手段として民主党の間で広がりつつある。
マサチューセッツ州選出の民主党下院議員、ジョー・ケネディ3世は先月、ツイッターに「もし2020年に指名承認の投票が行われるなら、われわれは最高裁判事を追加する。単純なことだ」と投稿。民主党上院トップのシューマー院内総務は、共和党が指名手続きを進めれば「来年の議論から排除されるものは何もない」と述べ、コート・パッキングも検討する可能性を示している。
合衆国憲法は裁判官の数を定めていないが、1869年以降、9人制が続いている。1937年に当時のフランクリン・ルーズベルト大統領が、最高裁でニューディール政策関連の立法に違憲判決が出たことに反発。定員を拡大しようと試みたが、議会で与党から「司法権の侵害」などと反発を受け実現しなかった。
問題は、最高裁判事の定員を政治上の都合で増やせば、最高裁への国民の信頼を失墜させ、連邦制度の根幹を揺るがす恐れがあることだ。こうしたことからメディアの間にも警戒論が強い。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は12日付の社説で、民主党内の左派が「最高裁を議会を通すことができない政策を実現させる事実上の立法府だと考えている」と非難。ナショナル・インタレスト誌(電子版)は9日、もし実現すれば「最高裁が独立した政府の一部門というよりは、大統領のためにのみ存在する機関に変えることになる」と警告した。
一方、バイデン氏や副大統領候補のハリス上院議員は、コート・パッキングについて意見を表明することを拒み続けている。大統領選に向けた討論会で質問を受けたにもかかわらず、両者とも回答を避けた。
バイデン氏は8日、「選挙後にコート・パッキングについての私の考えを聞くことになるだろう」と表明。9日には記者から、有権者はバイデン氏の立場を聞くに値しないのかと尋ねられ、「そうだ、彼らはそれを聞くに値しない」とまで言い切った。
バイデン氏が政権奪取後に実際に最高裁の定員拡大に動くつもりなのか定かではない。いずれにしても、バイデン氏の沈黙はコート・パッキングを主張する左派勢力への配慮を示すものだ。
こうした中、トランプ大統領や共和党、保守系メディアは、立場を明らかにしないバイデン、ハリス両氏への批判を強めている。トランプ氏は12日にツイッターで「もし彼らが勝利すれば、過激な判事を送り込むだろう」と主張した。
ワシントン・ポスト紙などが先月下旬に発表した世論調査によると、コート・パッキングへの支持は32%にとどまっている。今後この問題により焦点が当てられることで、トランプ氏や共和党に有利に働く可能性もある。

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