12月にベネズエラ国会議員選、分裂工作受ける野党連合
マドゥロ政権、体制強化狙う
南米ベネズエラで12月に国会議員選挙(定数167、任期5年)が行われる。反米左派マドゥロ政権は、政権基盤を確実にするために野党の切り崩しや分裂工作、また選挙監視団の受け入れ表明などを行っており、野党指導者のグアイド国会議長と野党連合は厳しい状況に置かれているのが現状だ。(サンパウロ・綾村 悟)
監視団受け入れも
ベネズエラでは1998年以降、反米左派政権が継続して実権を握っている。現職のマドゥロ大統領までに至る歴代政権の政治手法は、独裁かつ強権的で、野党政治家に対する迫害や政治犯投獄、反政府デモの弾圧など、とても民主的とは言えない状況だ。
最高裁や中央選管など権力に関わる国家機能のほぼすべてがマドゥロ政権に集中する一方、国会だけが現政権に対抗する野党勢力の牙城となっている。2015年12月の国会議員選挙で野党が過半数を大きく超える112議席を獲得したからだ。
ただし、現在は国会機能そのものが停止している。マドゥロ政権は、17年にマドゥロ派が多数を占める制憲議会を新たに発足させると、強制的に立法権などの権限を国会から制憲議会に移行させた。
さらに、18年5月に行われた大統領選挙では、マドゥロ氏が主要野党候補の立候補資格を剥奪しただけでなく、国際選挙監視団の受け入れを拒否した。米州機構(OAS)加盟国や欧州諸国がマドゥロ大統領の正統性に疑義を唱えている。
19年1月に野党指導者のグアイド国会議長がマドゥロ大統領の正統性に疑義を唱えて自ら暫定大統領に就任すると、欧米諸国や日本など50カ国が支持を表明した。現在、マドゥロ政権を支持しているのは、ロシアやキューバ、中国、イランなど一部の国々だ。
これまでの経緯もあり、12月の国会議員選挙に関して、国内外から公正性や透明性を懸念する声が上がっている。ベネズエラの野党連合は「民主的で公平な選挙が期待できない」として、8月上旬にボイコットを表明。グアイド氏は「多くの権利を阻害された現状での選挙など茶番にすぎない」と批判した。
米財務省は今月4日、「民主的な選挙実施を阻害している」として、ベネズエラの中央選管委員など4人を制裁対象者リストに載せると発表した。中央選管の委員は、マドゥロ派の最高裁判所判事によって任命されており、ムニューシン米財務長官は「マドゥロ政権は不正選挙によって国会を掌握しようとしている」と厳しく批判している。
マドゥロ大統領は、制憲議会や治安部隊による強行的な国会閉鎖、グアイド派議員の逮捕などを通じて、幾度となく野党を切り崩そうとしてきた。しかし、野党側は「国民から直接選挙で選ばれた」という正統性と国際社会の支援を盾に、国会開催を強行するなど存在感を保ってきた。
グアイド国会議長が暫定大統領として国際社会から支援を受けてきたのは、国会議長に大統領の正統な継承権があるからだ。
ただし、野党連合もボイコットで一枚岩となっているわけではない。主要野党指導者の一人であるカプリレス元ミランダ州知事は、「野党は出馬して戦うべきだ」と主張、同氏に同調する国会議員も決して少なくない。
また、マドゥロ政権による懐柔を受けて、政府に同調する姿勢を見せ始めた野党議員も出始めており、野党内の分裂や弱体化は確実に進んでいる。
こうした中、マドゥロ大統領は、選挙の正統性を確保する動きも見せている。手始めに、マドゥロ政権は8月末に、100人以上の政治家を含む政治犯を釈放した。この中には、グアイド氏の側近だった人物も含まれており、国際社会が求める人道措置に配慮した形だ。
さらに、マドゥロ氏は9月2日、国連事務総長や欧州連合(EU)の外務トップ宛に書簡を送り、選挙監視のオブザーバーを受け入れる意向を表明した。選挙監視団を受け入れることで、今回の選挙を「国連をはじめとする国際社会とベネズエラの民意」を反映したものだと強調するためだ。
野党陣営は、今回の選挙で過半数を失った場合、国会という牙城と大統領継承権を持つ国会議長の地位を失うことになりかねず、野党と反マドゥロ派の国民を結束させるリーダーシップの再構築が求められている。







