中国7大学との連携に警鐘、共同研究を利用し軍近代化 米シンクタンク報告書

 米国の学者は、中国軍とつながりの深い中国の学者との共同研究を続けることで米国の国益を損ねている――。米シンクタンク、フーバー研究所は最近発表した報告書でこう警告した。米社会の開放性を利用して軍の近代化を図る中国に対する米国の警戒感は一段と高まっている。(ワシントン・山崎洋介)

監視強化するトランプ政権

 米司法省は先月下旬、中国人民解放軍とのつながりを隠してビザを不正に申請したとして、中国人の男女4人を逮捕、訴追したと発表した。同省によると、米連邦捜査局(FBI)は、ほかにも中国軍との関係を申告しなかった中国人関係者の事情聴取を米25都市で行っているという。

中国軍とのつながりを隠してビザを不正申請したとして中国人4人を逮捕した米連邦捜査局(FBI)の本部=米ワシントン(山崎洋介撮影)

中国軍とのつながりを隠してビザを不正申請したとして中国人4人を逮捕した米連邦捜査局(FBI)の本部=米ワシントン(山崎洋介撮影)

 デマーズ司法次官補(国家安全保障担当)は、今回の訴追について「米国の自由な社会に付け込み、学術機関を食い物にする中国共産党の計画の一環だ」と非難した。

 フーバー研究所が先月30日に発表した報告書「グローバルな関与―研究事業におけるリスクを再考する」は、こうした実態を裏付けるものだ。

 報告書では、中国の学術雑誌データベース「CNKI」の2012~19年の論文を調査。その結果、中国軍と結び付きの深い七つの大学の学者と米国の115人の学者との共同研究が254件あったことを発見した。

 この七つの大学は、北京理工大学、北京航空航天大学、ハルビン工業大学、ハルビン工程大学、西北工科大学、南京航空航天大学、南京理工大学のことで、これらは中国で「国防7子」(国防の7人息子)と呼ばれる。

 もともと軍事関係機関として設立されたが、1970~80年代ごろに、大学へと転身。これらの大学は、民間の技術力を活用して国防能力の強化を図る「軍民融合」戦略の下、軍事産業基盤を強化し、人民解放軍の近代化を支えることをその主要な使命としているという。

 このため、この国防7子に所属する研究者は、民間部門の基礎的な研究であっても、軍事技術への応用を検討することを常に考えており、こうした大学と研究協力をする際には、慎重な検討を要すると報告書は強調した。

 調査対象となった論文の中国側の研究者の多くが人民解放軍と深い関係にあることが示されている。中には、軍の研究プロジェクトでステルス技術などを研究する人物や「XXX」などとプロジェクト名の一部が暗号化された中国軍の機密研究に参加していた複数の人物がいた。

 また、中国側の研究者の中には、所属する研究所と軍の関係を曖昧にするため、中国語で「国防重点実験室」という名称の組織を、英語では「国家重点実験室」と表記するなどしていた。また、所属する大学の英語版ウェブサイトは、中国語版にはあった数多くの国防関係の部署が省かれていた。

 このように軍との関係を「難読化」することによって、米研究機関が中国との共同研究に伴うリスクについて適切な精査を行う能力を阻害する可能性があるという。

 米中関係が先鋭化する中、トランプ政権は、米大学との関係を利用して軍事目標を果たそうとする中国の取り組みへの監視を強化している。5月下旬には、「技術や知的財産を盗もうとする中国の取り組みから米国を保護する」として、中国軍と関わりのある学生や研究者の入国を禁止する措置を発表した。

 報告書はこの措置について、「長らく放置されていた問題への力強い介入」だと評価。一方で、中国側が今後、米国との共同研究をオンライン、または米国外に移すなどの迂回(うかい)戦略を取る可能性もあると指摘した。

 その上で、研究機関が単独で外国との共同研究に伴うリスクを評価するのは困難だとして、研究機関の間で情報共有を促進するための新たな政府系組織を創設するなど、さらなる対応を取るべきだとした。