米抗議デモ暴徒化 破壊を放置するリベラル勢力


 米ミネソタ州で起きた白人警官による黒人男性暴行死をきっかけに全米に広がった抗議デモは、一部が暴徒化するなど大きな混乱が生じている。
 各地で建物や店舗が破壊、略奪、放火される光景は、鬱積(うっせき)する黒人の不満・怒りが噴出したという印象を与えるが、決してそうではない。暴動や略奪は、抗議デモに便乗した扇動者や犯罪者によって引き起こされた「国内テロ」(トランプ大統領)であり、大多数の平和的デモと切り分ける必要がある。

対立構図をエネルギーに

 今回の騒動で、米国では人種対立が深まっていると言われるが、本当にそうだろうか。亡くなったジョージ・フロイドさんは、警官に膝で首を圧迫され、「息ができない」と苦しみながら意識を失った。この残忍な映像を見た多くの白人が、義憤に駆られ、黒人と共に路上で抗議の声を上げた。白人と黒人が憎しみ合っていれば、そんなことは起きるはずがない。

 また、警察組織内には人種差別がはびこっていると非難されるが、それを示す明確な証拠はない。2018年に米国で発生した殺人の53%、強盗の60%が黒人によって引き起こされたという。犯罪率が高ければ、それだけ黒人は警官と接触する機会が増え、発砲など予期せぬトラブルに発展する確率が高まるのはどうしても避けられない。

 むしろ、今回の騒動で憂慮すべきは、フロイドさんの死を利用して暴動や略奪を働く連中が数多くいること、そして、扇動者・犯罪者を一般のデモ参加者と区別して厳格な措置を取らない政治指導者が多いことだ。

 暴動や略奪が発生した大都市のほとんどは、リベラルな民主党に支配されている。米国民を人種、民族、宗教、性別などのアイデンティティーでグループ分けし、その対立構図を政治エネルギーに変えるのが「アイデンティティー・ポリティクス」と呼ばれる民主党の政治戦略だ。党利党略のために、人種間の緊張を意図的に煽ってきたのはリベラル勢力なのである。

 ニューヨーク市内で略奪行為が相次いだのは、市内で最初の抗議デモが発生してから数日後だ。地元当局には暴動や略奪を防ぐ措置を講じる十分な時間的余裕があったにもかかわらず、それをしなかった。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、クオモ州知事とデブラシオ市長を名指しし、「(暴力を)止める政治的意志が欠如している」と厳しく批判した。

「法と秩序」を回復せよ

 米国の大手メディアや知識人の非難の矛先が扇動者・犯罪者ではなく、トランプ大統領ばかりに向かっているのも理解に苦しむ。トランプ氏の挑発的な言動や軍投入案が混乱に拍車をかけた側面があるのは否定できない。だが、「法と秩序」の回復を求めることの何が悪いのか。デモ参加者は「正義」を求めているが、法と秩序がなければ正義は実現しない。

 「破壊しても、何も解決しない」――。これは暴動に反対するフロイドさんの息子の言葉である。米国民にはこの言葉に真摯に耳を傾けてもらいたい。フロイドさんの死を無駄にしないためにも。