新型コロナで米専門家が中国の責任追及求める

 トランプ米大統領ら政権幹部が新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」などと呼んだことをめぐり、中国だけでなく一部の米メディアからも「人種差別」などとの批判が相次いだ。しかし、こうした呼称を支持し、初動対応の遅れなどでウイルスを世界に拡散させることになった中国の責任を追及する必要性を訴える米専門家も多い。(ワシントン・山崎洋介)

「勝利宣言」宣伝工作に警告
「歴史の書き換え許すな」

 新型コロナウイルスの呼称をめぐり、米国のリベラル系メディアは相次いでトランプ氏らに非難の集中砲火を浴びせた。MSNBCテレビの司会者ジョン・ヘイルマン氏は、番組中に「むき出しで、明白で、目に余る人種差別主義だ」などと指弾。CNNオピニオンライターのジル・ジル・フィリポビッチ氏は、「外国人嫌悪の人種差別」と槍玉(やりだま)に挙げ、14世紀のヨーロッパで黒死病の原因としてユダヤ人が虐殺された史実を引き合いに出した。

トランプ米大統領

3月18日、ホワイトハウスの会見で新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んだトランプ米大統領(UPI)

 しかし、発生地に由来した呼称は「スペインかぜ」「ウエストナイルウイルス」など過去に多くある上、中国や批判するメディア自身が当初は「武漢ウイルス」「中国ウイルス」などと用いていた事実がある。むしろこうした呼称への非難は、中国が米軍説を広めるなど責任転嫁を図る中、その宣伝工作に加担することにもなりかねない。

 有力シンクタンク、ブルッキングス研究所のシャディ・ハミド上級研究員は、中国に気兼ねして武漢ウイルスなどの呼称を避ければ、「疾患を世界に拡散させた中国政府の責任をあいまいにするリスクがある」と主張した。

 中国は2002~03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の際にも隠蔽(いんぺい)を図るなど、感染症対策で失敗を繰り返してきたと、ハミド氏は指摘。「各国に壊滅的な打撃を与える可能性のある大災害の責任について明確にすることは不適切ではない。特に中国当局者が危機を利用し、米軍がウイルスを導入したと主張する偽情報キャンペーンを展開している状況ではなおさらだ」として、ウイルス発生の起源を明確にすべきだと強調した。

 また、フーバー研究所のマイケル・オースリン研究員は、中国は責任を回避したまま、ウイルスに対する「勝利宣言」をするなど封じ込めに成功したとのイメージを世界に広めようとしているが、各国は「中国がこのウイルス大流行の歴史を書き換えることを許してはならない」と訴えた。

 オースリン氏は、中国が宣伝工作に躍起になるのは「世界各国の目が中国政府のずさんな公衆衛生管理や無能さに向く」ことで、中国共産党による統治の正統性が揺らぐだけでなく、海外企業の中国離れが進むことを恐れているからだと分析。「武漢ウイルスは、中国を崖っぷちに立たせている」と指摘した。

 米国では感染拡大に国際レベルで対処する必要がある中、「武漢ウイルス」などと呼ぶことで、いたずらに対立をあおるべきではないとの意見もある。しかし、ハドソン研究所上級のジョン・リー研究員は、新型コロナウイルスの起源とその後の拡散について言及を避ければ、「中国共産党がその価値観や政治体制について不問に付される一方、欧米諸国のみが精査を受けることになる」とし、中国式統治モデルが勝っていると宣伝する中国を利することになると警告した。

 一方、米戦略コンサルト会社ホライゾン・アドバイザリーが3月に発表した報告書によると、中国は欧米企業がウイルスへの対応で後れを取っている間に、産業政策「中国製造2025」などで重点を置く分野の輸出を増加させ、市場シェアを拡大する計画を進めている。「中国は新型コロナウイルスを利用して、長年続けてきた戦略的攻勢を加速させようとしている」という。

 パンデミック(世界的流行)の発生は、公衆衛生上の危機であるだけでなく、今後の米中間のパワーバランスも変える可能性があり、両国間で繰り広げられている情報戦の今後の展開が注目される。