米大統領弾劾訴追、民主党左傾化で深まる分断


 トランプ米大統領がウクライナ疑惑をめぐり弾劾訴追された。浮き彫りになったのは、米国の党派対立がトランプ氏の下でかつてないほど熾烈(しれつ)になっている現状だ。対決的な政治姿勢を取るトランプ氏にその責任の一端があるのは間違いない。だが、それ以上に野党民主党が党内の急進左派勢力に引きずられる形で極端な方向に進んでいることが、分断の最大の要因と言っていいだろう。

 共和党を誰も説得できず

 米政治の分断の度合いは、下院が行った弾劾訴追状案の採決にくっきり表れた。訴追状案で問われたのは「権力乱用」と「議会妨害」の2条項だったが、民主党は228人が両条項に賛成し、3人が一方または両方に反対。これに対し、与党共和党は195人全員が反対に回った。疑惑が弾劾に値するかどうかの判断は、与野党で見事なまでに分かれたわけだ。

 弾劾訴追を主導したナンシー・ペロシ下院議長ら民主党幹部は当初、弾劾は超党派の支持が得られる必要があるとの認識を示していた。だが、民主党は政府高官ら重要証人を招いて公聴会を開催し、反トランプ色の強い大手メディアもこれを大々的に報じたにもかかわらず、共和党議員を誰一人として説得できなかったわけである。

 来年1月から弾劾裁判が行われる上院は、共和党が多数を占めており、トランプ氏が有罪となって罷免される可能性は皆無に近い。にもかかわらず民主党が弾劾に突き進んだのは、来年11月に行われる次期大統領選でトランプ氏の再選を阻止するために政治的ダメージを与えたいとの判断からだ。だが、世論調査では、弾劾手続きが始まってからトランプ氏の支持率は上がっており、民主党の思惑とは逆の方向に進んでいる。

 結論ありきで弾劾手続きを進める一方、ウクライナ疑惑に絡むジョー・バイデン前副大統領親子の疑惑については無視を決め込む。民主党の追及姿勢に公平性が欠けていたことは間違いない。これが共和党を弾劾反対で結束させただけでなく、無党派有権者までも遠ざける結果となった。

 もともと弾劾に慎重だったペロシ氏が舵(かじ)を切ったのは、弾劾を強硬に主張する急進左派勢力からの突き上げを抑え切れなくなったためだ。彼らに引っ張られる形で、民主党の大統領候補たちもリベラルな政策を競い合うように打ち出している。民主党の左傾化が進めば進むほど、米政治の分断が一段と深まるのは避けられない。

 党派対立の「政治劇」

 トランプ氏は米史上3人目の「弾劾訴追された大統領」となった。ウクライナ疑惑は、トランプ氏が民主党の有力大統領候補であるバイデン氏の評判を落とすために、ウクライナ政府に対し、軍事支援の凍結解除と引き換えに同氏の疑惑調査を求めたというものだ。これが事実であれば、由々しきことであり、トランプ氏の擁護ばかりはできない。

 ただ、弾劾をめぐる騒動は、民主党の左傾化により激化した党派対立の中で表れた「政治劇」であるという側面を見落としてはならない。