モスクワ市議会選、広がる露政権への不満

 ロシアで9月8日に行われた統一地方選は、極東など一部の議会を除いて与党「統一ロシア」の勝利に終わった。民主派が反政権デモを繰り広げたモスクワ市議会選では、政権側はデモ参加者を拘束し中心メンバーに実刑判決を下すなど、徹底した封じ込めを図った。これに対し民主派はツイッターを使った与党候補の落選運動を行い、一定の成果を収めた。
(モスクワ支局)

野党候補排除に抗議デモ
民主派はツイッターで落選運動

 今回の統一地方選では、16の連邦構成主体で知事選・首長選、13で議会選が行われた。プーチン政権与党「統一ロシア」は、16の知事選・首長選で勝利。ハバロフスク地方など2議会を除いて勝利を収めた。

ナワリヌイ氏

ナワリヌイ氏(EPA時事)

 政権による選挙戦への介入や対立候補の排除、そして、与党の知事・首長を選択することで、彼らが連邦予算を獲得することを期待する有権者の選択が組み合わさった結果といえる。

 特に注目を浴びたのがモスクワ市議会選挙だった。

 普段ならば、それほど政治的な影響力のない市議会選挙に大きな注目が集まることはない。しかし、プーチン政権への不満が広がる中で政権側は、反体制派の活動家らの立候補を認めず、これに抗議するデモを実力で封じ込めた。さらに、デモの中心的メンバーを逮捕し実刑判決を下すなど徹底して押さえつけた。

 この露骨なやり方の背景には、「統一ロシア」には人気を集めそうな候補が見当たらず、このままでは不利だと政権側が判断したことがあるとみられる。

 立候補に必要な署名を集めたにもかかわらず、反体制派の活動家は次々と立候補登録を拒否された。これに対し反体制派は7月27日と8月3日にモスクワ市庁舎前で無許可デモを実行。当局は警官隊を投入し、抵抗するデモ参加者を警棒で殴りつけるなどして、約1400人を拘束した。

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警官隊と衝突するロシアのデモ隊=7月27日、モスクワ(AFP時事)

 反体制派の反発はさらに広がり、8月10日には、ここ数年で最も大規模となる5万人を集めた抗議デモを行い、市議会選の延期と、門前払いされた立候補者の登録、デモで逮捕された人々の釈放を要求した。

 抗議デモの要求が、例えば社会政策などに関するものであったら、政権側も何らかの譲歩をした可能性はあるが、政治的要求に譲歩することは、政権が自らの弱さを示すことになる。

 このような状況の中、野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏らは、当局による封じ込めを招く街頭の抗議活動ではなく、ネット上での戦いへと戦術を転換した。「賢い投票」と名付けられたキャンペーンのサイトには、次のような文言が書かれている。

 「我々は統一ロシアに飽き飽きしている。地方議会から連邦議会まで、彼らの代表が絶対的多数を握っている。これは不公平であり、国民の意思にも合致していない。…統一ロシアへの最も有力な対立候補に投票し、彼が当選すれば、統一ロシアは議席一つを失うことになる。イデオロギーを捨て、最も強い対立候補に投票すべきだ」

 統一ロシアの人気低迷を受け、与党候補は無所属で立候補していた。ナワリヌイ氏らは「賢い投票」サイトに登録した人々に対し、統一ロシアと関係のない候補の名前を送信した。

 「賢い投票」は政権に打撃を与える試みである一方で、いかなる法律にも違反はしていない。結果的にモスクワ市議会選挙(定数45)では、統一ロシアと政権支持の無所属議員は、選挙前の38議席に対し、25議席に減少。一方で、ロシア共産党は5議席から13議席に、改革派野党ヤブロコは議席ゼロから4議席に、中道左派の公正なロシアも0議席から3議席に躍進した。統一ロシア系25議席に対し、野党が20議席を占める結果となった。

 もっとも、ロシア共産党と公正なロシアは、政権を批判するものの背後でプーチン政権とつながっており「体制内野党」と呼ばれる。このため、政権派が議会の多数を占めること自体に変化はない。しかし「体制内野党」であっても、統一ロシア支配に風穴を開けたことは事実であり、政治情勢によっては彼らが政権批判を強める可能性がないわけではない。

 プーチン政権は反体制派とどこかで妥協するのではなく、徹底して押さえつける道を選択した。それで国民の不満が解消されるわけではなく、決して今回の選挙結果で政権が安泰となったわけではない。