プーチン大統領、支持率浮揚ならず
ロシアのプーチン大統領は6月20日、テレビを通じた毎年恒例の国民との直接対話を行った。国民の質問は、低賃金や環境問題など生活に直結したテーマが多くを占めた。大統領は国民生活について「政府プログラム」により改善に向かうとしたが、支持率向上には至っていない。
(モスクワ支局)
不発だったTV「直接対話」
「生活苦」増え左派政策検討か
17回を数えるプーチン大統領の「直接対話」。モスクワのスタジオとロシア各地をテレビ中継で結び、国民から寄せられたさまざまな質問に回答する恒例行事だ。
質問が事前に準備されているとか質問を選別しているなどの“演出”について、独立系メディアが報じたことがある。それでも、プーチン氏が的確に回答する様子は、大統領のイメージアップに直結するため、支持率を高める手段として重要なイベントであることに疑いはない。
しかし、そのマジックも限界を迎えているようだ。全ロシア世論調査センターが、「直接対話」後の同24日から30日に行った調査では、大統領の支持率はそれ以前の64・8%から63・7%に減少した。また、「信頼できる政治家」との項目でも31・0%から30・4%に下がった。
プーチン氏は2000年に大統領に就任して以来、国民が聞きたい言葉を語る能力を発揮し、自らの権力を支えてきた。エリツィン政権時代の混乱に対し、「垂直権力」と呼ぶ中央集権化により、社会秩序の回復や「強いロシア」の実現をアピールしてきた。
しかし、14年のクリミア併合を受けた対露経済制裁や、ロシアの主要輸出品であるエネルギー価格の低迷による景気悪化を受け、国民生活は悪化を続け、改善の糸口はつかめていないままだ。
このような背景を受け、今回の「直接対話」では生活苦を訴える質問が目立った。この6年間賃金が減り続け、生活ができなくなっているとの質問にプーチン氏は、実質賃金がここ数年下落しているのは事実だとしながらも、(現在進めている)「政府プログラム」で人々の生活は向上するだろうと回答した。
しかし、これで多くの人々が納得することはないだろう。それは、プーチン氏自身が最も分かっているようだ。だからこそ、質問されていないにもかかわらず、ソ連崩壊後の混乱期である90年代に言及し、その混乱に対する責任を負うべき人々がいると語ったのだ。
「(90年代の)この期間、社会福祉や産業、国防、すべてを失った。国に対する信頼もなくなり、軍も事実上崩壊した。カフカス地方での流血など、内戦状態にまで陥った。これら責任を取らなくてはならない人々がいる。これらは彼らが起こしたことだ」
ただし、プーチン氏は当時のエリツィン政権で連邦保安局(FSB)長官や首相というポストに就き、エリツィン大統領の後継者としてトップに上り詰めた人物。90年代の混乱の責任を問うならば、自らの責任も追及されなくてはならない。が、それについては忘れてしまったようだ。
また、プーチン大統領は、ロシア共産党や左派中道政党「公正なロシア」が主張してきた企業の国営化や、富裕層への所得税率アップ(現在は一律13%)についても、検討をほのめかした。民間企業の国営化や富裕層への所得増税を行えば大きな抵抗が予想され、政権基盤を揺るがしかねない。が、何らかの方策を模索しつつあるようだ。
片や国民は「直接対話」自体に興味を失い始めている。今回寄せられた質問の総数は200万件で、昨年に比べ約25%減少した。質問を送ることで、自らの身辺が危うくなるかもしれない、との考える人々が増えたためではないか、との見方が出ている。
今年の「直接対話」を控えた6月7日、政権の汚職追及などで知られるインターネットメディア「メドゥーザ」のイヴァン・ゴルノフ記者が、麻薬を所持していた容疑で逮捕された。もっとも、同氏に掛けられた嫌疑は捏造(ねつぞう)であり、言論弾圧であると反発が広がり、コロコリツェフ内相は同11日、証拠不十分として刑事訴追を中止すると発表した。
また、モスクワ郊外で「直接対話」に向けた質問を集めていた市民グループが、警察により強制排除される事件も起きているからだ。

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