露大統領が年次教書演説

 ロシアのプーチン大統領は2月20日、上院で、15回目となる年次教書演説を行った。対露経済制裁などで国民生活が苦しくなる中、社会保障や生活向上などのテーマに大半を費やした。しかし、昨年の演説と同様に新型兵器に言及することは忘れず、米国と同盟国の離反を画策したが、その効果は薄いようだ。
(モスクワ支局)

大半を福祉・生活関連に
効果薄い新型兵器誇示

 プーチン大統領の年次教書演説について、ロシアのネット上では「冷蔵庫がテレビに勝った」との書き込みが見られる。

プーチン大統領

2月20日、モスクワで年次教書演説を行うロシアのプーチン大統領(EPA時事)

 ロシアの主要産品であるエネルギー価格の低迷や、欧米諸国などによる対露経済制裁で国民生活は厳しさを増している。書き込みの意味は、「人々の関心はプーチン大統領のプロパガンダを放映するテレビではなく、冷蔵庫の中身、すなわち日々の生活をどうするかにある」であり、もっと端的に言えば「年次教書に興味はない」となる。

 イタルタス通信によると、今回の年次教書演説のテレビ中継視聴率は6・6%だった。昨年は7・3%で、年々低下する傾向だ。ネット上では「これまでの数々の年次教書を読み返してみろ。実現した項目があるのか」など厳しい意見が目立つ。

 クレムリンも当然、状況を把握しており、1時間26分にわたって行われた今回の年次教書演説で、その大半に当たる1時間15分を社会福祉関連や、国民の生活向上に関するテーマに費やした。

 演説で特に重点を置いたのは、経済全般や生活水準の向上に加え、医療サービス・少子化対策の拡充や教育環境の改善、貧困対策、環境問題、地方の文化プロジェクト支援など。プーチン大統領はさらに、これらの政策が非常に近い将来に実行されることを強調した。

 年金改革への反発で支持率の低下傾向が続く中、手厚い社会福祉政策を表明することで、挽回を図りたい意向も見え隠れする。

 シルアノフ財務相は年次教書演説の後、プーチン大統領が示したこれら政策の実現には2019年から24年の5年間に9000億ルーブル(約1兆5200億円)が必要であり、歳出を厳格にチェックすることで捻出すると説明。財源に言及することで、政策の実現性をアピールした。

 ただ、ネットの反応を見る限り、演説の効果があったかどうかは疑問だ。「社会の公正さについてはこれっぽっちも言及されなかった」「新しい内容があったと思うか?」「読む気もしない」などの意見が散見される。

 一方、プーチン大統領は、社会福祉のテーマに多くの時間を費やしながらも、米国が冷戦末期に旧ソ連と締結した中距離核戦力(INF)廃棄条約から脱退したことに触れることを忘れなかった。

 米国が、62年のカリブ危機(キューバ危機)のような新たな危機を望むならば、ロシアはそれに対する準備があると宣言。

 昨年の年次教書演説でもさまざまな新型兵器を誇示したが、今回は、最大で音速の9倍で飛行し米国のミサイル防衛(MD)網を突破する核搭載ミサイル「ツィルコン」を、潜水艦に搭載し米国の領海付近に配備すると述べ、米国をけん制した。

 新型兵器を誇示するプーチン大統領の狙いについて、アレクサンダー・バーシュボウ元駐露米大使はボイス・オブ・アメリカのインタビューで、「米国と同盟国の離反を画策したものだが、成功しなかった」との判断を示した。

 バーシュボウ氏はさらに「私がロシア国民の立場だったら、こう質問しただろう。生活水準が低下する中で、これだけの資金を軍拡に投じる意味があるのか」と皮肉っている。

 米国防総省のエリック・ペイホン報道官は、「プーチン大統領が、新たな脅威や新兵器を語るたびに、NATO(北大西洋条約機構)の結束を強める結果になっていると知るべきだ」と、余裕の構えだ。

 対日関係については、北方領土問題に関する直接の発言はなかった。しかし、「日本との政治的対話と経済協力を続ける。平和条約締結のために相互に受け入れ可能な条件を共に模索する用意がある」と、平和条約について年次教書演説で初めて言及し、重要課題として取り組む姿勢を示した。