ロシア、ビジネス課税強化

 原油などエネルギー輸出から得られる収入が減少する中、ロシア政府はビジネスに対する課税を強化し、その穴埋めをする方針だ。しかし、制裁により経済が低迷する中での課税強化は、国民生活にさらに大きな負担を強いることになる。一方、軍事・治安関係予算は2019年予算で歳出の25・9%に達し、社会保障費を抜き最大の支出項目となった。
(モスクワ支局)

原油収入減少が背景
個人消費冷やす可能性も

 ロシアの与党「統一ロシア」の党大会が12月8日、モスクワで開催された。最大の焦点は、9月に行われた統一地方選(首長選)の総括だった。統一ロシアは19の地方構成体に候補を擁立したが、勝利したのは15。ハバロフスク地方、ウラジーミル州ではロシア自由民主党の候補に敗北し、ハカシア共和国では決選投票を辞退した。沿海州地方では共産党候補を僅差で上回ったが、不正の疑いで選挙は無効とされるスキャンダルを起こした。

プーチン大統領

ロシアのプーチン大統領=11月2日、モスクワ(AFP時事)

 昨年、一昨年の首長選で、統一ロシアの候補は全勝だった。政権与党が圧倒的に有利なロシアの選挙でのこの結果は、党内に衝撃を与えた。ただ、国民に極めて不評な年金改革で逆風を受ける中でのこの選挙結果はそれほど悪くはない、との見方もある。

 どちらにせよ、統一ロシアの党勢は衰えつつある。全ロシア世論調査センターの12月2日の調査によると、統一ロシアの支持率は35・4%。今年6月の支持率45・9%から10ポイント低下した。

 党大会に出席したプーチン大統領は、統一ロシアには「特別な役割」があり、ロシアの発展のために「社会を結集させる」必要があると指摘した。もっとも、政府や与党が打ち出す経済政策は庶民の財布の紐(ひも)をさらに固くさせており、経済にマイナスとの見方が強い。

 ロシア国内の消費セクターは、経済制裁などにより低迷を続けていたが、2017年夏ごろから上向きに転じた。しかし、2018年夏から国民の実質所得は再び減少。さらに、付加価値税の増税(18%を20%に)や公共サービス費の値上げなどで消費にもブレーキがかかっている。消費支出の増加が物価上昇を下回っており、国民が購入量を減らすか、より安価な商品を購入していることが窺(うかが)える。

 この状況をさらに悪化させる可能性があるのが、2019年1月1日に行われる環境税の増税である。環境税は、産業廃棄物の種類や量に対し税金を課すものだ。しかし、企業は増加したコストを商品価格に転嫁するため、特に食料品の価格が1%押し上げられると専門家は分析している。

 また、モスクワ市、モスクワ州、カルーガ州、タタルスタン共和国で1月1日から、小規模個人事業に対する課税が試験的に開始される。「小規模個人事業」とは新しい言葉であり、個人の副業なども含まれる。 同法の施行により、小規模個人事業を行う者は、商品やサービスを個人に販売した場合には売上の4%、法人に販売した場合には6%の税が課せられる。

 国際通貨基金(IMF)によると、ロシアの国内総生産の34%が闇経済で、生産年齢人口の36%が税金を支払っていないとされる。闇経済にメスを入れるという発想は評価できるが、現実的には、副業を行う庶民に対する課税強化となり、個人消費を冷え込ませる可能性が高い。小規模個人事業を行う人々の89%は、別に主な収入源を持ち、その収入に対する税金は払っているとされる。

 実際、富裕層を除く庶民が課税を逃れることに対し、これを容認する意見は多い。全ロシア世論調査センターによると、庶民が副業などを事業登録しないことに対し、3分の2が肯定的に捉えている。

 年金改革などにより、社会保障制度に対するわずかな期待も砕かれたことが、その背景とみられている。

 ロシア政府が、原油などエネルギー輸出に依存した財政を転換すること自体は評価できるが、実際には、これらの収入の減少を、庶民への増税で穴埋めする形となっている。

 一方、2018年にはロシアの家計債務は20%増加すると見込まれている。ロシア人は平均して収入の10%から12%を債務返済に充てている。2人に1人は債務を、新たな債務で返済しているとされ、今後1年半で金融危機が起こると警告する専門家もいる。プーチン大統領が世界5位以内の経済大国を目指して5月に発表した「5月指令」の実現は程遠いようだ。