景気低迷と物価高騰、高まるロシアの社会不安
ロシア国民の生活に対する不安が急速に高まっている。景気の低迷、物価高騰に加え、国民の生活に大きく影響する年金改革を進めていることなどが背景だ。プーチン大統領が年金改革の修正案を提示したものの、反発は収まっていない。支持率低下に焦るクレムリンは、大統領の人気テコ入れのため、新情報番組をスタートさせた。(モスクワ支局)
98年経済危機以来の水準に
大統領新番組で支持率回復狙う
ロシアの世論調査機関「レバダ・センター」は6日、毎年8月末に行っている「人々を不安にさせる問題」に関する調査を発表した。これによると、72%の人々が物価の上昇と回答した。また、52%が貧困化の拡大、48%が失業の増大、30%が経済危機、また、同じ30%が貧富の差の拡大と不公正な所得分配と答えた。
原油価格の下落や、クリミア併合を受けた対露経済制裁により景気が悪化し、さらに、制裁への対抗措置としてロシアが食料品の輸入禁止措置に踏み切ったことなどで、食料品などさまざまな物価が上昇していることが背景にある。
プーチン大統領を取り巻くエリートらが、国家や国営企業などの主要ポストを“世襲”させ、階層社会をつくり出していることからもたらされる社会の閉塞(へいそく)感も、国民の不満や不安を高める結果となった。
レバダ・センターのレフ・グドコフ所長は調査結果について「それぞれの設問で平均して30%ほど数字が増えた。ここまで社会不安に対する回答が高まったのは(ロシアが債務不履行に陥った)1998年以来である」と語った。
国民の強い反発を招いた年金改革も、不安を高めた大きな要因だろう。プーチン大統領は8月29日、国民へのテレビ演説の場で、改革の修正に言及した。女性の年金受給開始年齢を、当初案の63歳から60歳へと引き下げ(現在は55歳)、子供を多く産んだ女性などはさらに早い年齢で受給できるとした。
もっとも、プーチン大統領は3月の大統領選挙以前は、「年金支給年齢の引き上げには絶対に反対だ」と述べていただけに、この程度の修正では国民の不満は収まらないだろう。
一方で、国民からの強い反発に危機感を強める与党「統一ロシア」も、代案を打ち出した。汚職で摘発された人々から押収したカネを年金基金に投入することで、制度を安定させ、年金支給開始年齢の引き上げを緩和する、というものだ。
ところで、下院の統一ロシア所属議員315人のうち、18人は10億ドル以上、250人は100万ドル以上の資産を持つ。国民の目から見れば、彼らこそが“汚職の張本人”。ネット上では「新たな汚職対策を打ち出す必要などない。議員はまず自らを省みよ」との内容の書き込みが目立つ。統一ロシアの代案は、国民の嘲笑を買っただけに終わった。
このような中、ロシアの国営テレビで、新しい情報番組がスタートした。その名も「モスクワ、クレムリン、プーチン」。毎週日曜日午後10時に始まるこの番組では、1週間を振り返り、プーチン大統領が精力的に職務をこなし、ロシアの各地を訪れ、外国元首の会談や国際会議に臨む様子が映し出される。
落ち込んだ支持率を回復するため、国営テレビを通じたPRを強化した形だ。しかしこれは、クレムリンが行ってきた「慈悲深い皇帝」の演出を無効にする可能性がある。この演出とは、プーチン大統領は常に国民の生活に心を配っているが、閣僚や知事らの職務怠慢により、国政や地方行政のさまざまな問題が起きている、というものだ。
景気の悪化や物価上昇、年金改革や付加価値税の引き上げなどに対し、具体的な解決策が無いまま、プーチン大統領の露出を増やせば、国民の不満は政府ではなく、大統領に直接向かう可能性があるからだ。
政治分析などを行う「R・Politik」の代表である社会学者のタチアナ・スタノヴァヤ女史はこのように述べている。「番組は、プーチン大統領の支持率回復という課題を解決するものではない。この番組は、支持率低下の責任を取らされるのではと恐怖を感じている取り巻きが、大統領に認められるため作ったものだ」






