プーチン露大統領、厳しい4期目

90都市で抗議デモ

 ロシアのプーチン大統領が7日、クレムリンで大統領就任式を行い、4期目をスタートした。一方で、就任式を前に各都市でプーチン政権に抗議するデモが行われ、1200人以上が拘束されるなど、政権に対する不満もくすぶっている。プーチン大統領は宣誓式で、国民生活の向上に力を入れると表明したが、より厳しいかじ取りを迫られている。
(モスクワ支局)

貧困・格差に国民の不満

 就任式の2日前の5月5日、モスクワ、サンクトペテルブルクをはじめとするロシアの90都市で、4期目の大統領就任式に抗議するデモが行われた。

プーチン氏

 主導したのは著名な野党指導者であり、3月の大統領選への立候補が認められなかったアレクセイ・ナワリヌイ氏。デモは、「彼はあなたの皇帝ではない」とのスローガンを掲げた。「一人一人が自らの国の市民である権利」のため、デモに参加しようとの呼び掛けに、多くの若者らが応じたもの。モスクワでは数千人が参加した。

 しかし、デモは当局の許可を得ずに行ったもので、モスクワではナワリヌイ氏を含め500人以上、ロシア全体では1200人以上が警官隊に拘束された。警官隊は拘束の際、腹や背中を蹴り付け、路上に引き倒すなど参加者を手荒く扱った。特に、拘束されようとした仲間を助けようとした参加者は、警棒で激しく殴り付けられていた。騒ぎが収まった後の路上には、いくつもの血痕が残されていた。

 一部のネットメディアやSNSは、デモや、拘束の様子について報じたが、国営もしくは政府系企業の傘下にある主要テレビ局・メディアは、これらには触れなかった。

 そのような中で7日、国立クレムリン宮殿で、プーチン大統領の4期目の就任式が行われた。宣誓後の演説でプーチン氏は、「ロシアはこの数年間に多くのことを成し、国益を擁護するとともに祖国の誇りを取り戻した」などと実績を強調した。

 続けてプーチン氏は、「しかし、現在の中心的な課題は、国民の健康と安全を守ることだ。われわれの向かう方向は、国民のためのロシアだ」と演説。「すべての能力を国内の喫緊の課題への対処や、経済と技術の躍進のために使わなければならない」とし、4期目の課題は内政であり、国民の生活向上に力を入れることを表明した。

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5日、モスクワで、プーチン大統領就任に反対するデモの参加者を拘束するロシアの警官ら(時事)

 プーチン氏は、ウクライナのクリミアを2014年に併合したことで人気が沸騰し、9割近い支持率を得た。その後、対露経済制裁や、主要輸出品目である原油などエネルギー価格の下落で景気が悪化。通貨ルーブルも大幅に下落し、輸入品を中心に物価が上昇し国民の生活を直撃したが、彼らの不満を、制裁を科している欧米に向けることで、高い支持率を保ってきた。

 しかし、景気の低迷が長引くにつれ、国民の不満はじりじりと高まってきた。ナワリヌイ氏が、プーチン政権の汚職をインターネット上で告発してきたことも、若者らを中心に政権への不満を高めることになった。

 4月下旬、「レバダ・センター」が行った世論調査の結果も、国民の不満が高まっていることを浮き彫りにしている。プーチン大統領の実績として「ロシアに再び、大国としての地位を取り戻した」とする回答は、15年の49%に対し、今回は47%とほぼ横ばい。

 しかし、その一方で「所得の公正な分配に失敗した」との回答は、15年の39%に対し、45%に増加。「改革の過程で庶民が失った資産を返していない」との回答も、15年の34%に対し39%に増加した。

 さらに、「賃金や年金、奨学金を増やすことができていない」とする回答は、15年の15%に対し、32%とほぼ倍増。「経済危機を克服できていない」との回答も、15年の23%に対し、27%と増加した。

 プーチン大統領が「国民のためのロシア」を打ち出したのは当然のことだろう。しかし、3月の年次教書演説でプーチン氏は、愛国心を鼓舞するため新型兵器などの軍事力を誇示し、欧米との対立を煽(あお)った結果、経済制裁の解除は遠のいた。抗議活動のうねりがさらに大きなものとなったとき、どのように対処していくのか。プーチン政権4期目は、さらに厳しいかじ取りを迫られている。