プーチン氏、17年自賛の総括に疑問の声

 ロシアの年末年始にさまざまなメディアが「2017年のロシアの総括とトップ5の成果」を報じた。政府のプロパガンダでありどれも内容は同じで、経済危機を克服し安定成長のステージに入った――など、五つの成果が列挙されているが、その実態については疑問の声も上がっている。
(モスクワ支局)

主な成長要因は原油相場
インフレ・失業率は過小報告?

 「2017年のロシアの総括とトップ5の成果」は、以下の通り。①ロシアは経済危機を克服し、安定成長のステージに入った②庶民の生活の質が向上した③巨額の投資を呼び込み、停滞していたインフラ整備計画を実行している④若者がロシア発展の原動力となっている⑤18年ロシアW杯の準備を順調に進めている――。

プーチン氏

昨年12月14日、モスクワで年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領(AFP=時事)

 これらトップ5の成果は、プーチン大統領が12月14日に行った「国民とのテレビ対話」で言及したもの。再選を目指す3月18日の大統領選に向け、政権の実績を訴える重要なアピールポイントになる。しかし、プーチン大統領が胸を張る成果ではあるものの、その実態については、疑問の声も上がっている。以下、一部メディアなどによる検証をまとめた。

 ①経済成長

 ここ数年マイナス成長を続けていたロシア経済は2017年、成長に転じた。ロシア中銀によると、昨年の成長率は1・6~1・7%。国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)の17年の世界経済成長見通しは3・6%で、先進国に限ると2・2%。これらに比べると低いが、成長であることに変わりはない。

 ロシア経済を成長に転じさせた最大の要因は、ロシアの主要輸出品である原油価格の上昇だ。1バレル=50ドルを超えると、ロシア政府は余剰収入を得て、予備基金に蓄えることができる。

 年末の原油相場は1バレル=65ドルだった。成長はほぼ、外的要因によるものである。

 ②庶民の生活の向上

 原油安と経済制裁によりロシアの通貨ルーブルは暴落し、輸入品をはじめとして物価の高騰を招き、庶民のフトコロを直撃した。インフレ率は2015年に15・53%となったが、翌16年は7・05%に下落し、17年は、近年で最も低い2・5%となった。

 しかし、市民の実感としては物価上昇は続いており、「近年で最も低いインフレ率」と言われても、にわかには信じがたい。

 ところで、ロシアの主要政策金利は12月時点で7・75%だ。原油安や対露経済制裁に苦しめられた14年12月に一気に17%に引き上げて以来、最も低い数値ではあるが、公式発表によるインフレ率の3倍以上となる。

 専門家らはインフレ率と主要政策金利の乖離(かいり)について、ロシア中銀はインフレを非常に恐れているか、もしくは実際のインフレ率は公表されている2・5%をずっと上回っているのか、そのどちらかだろうと分析している。

 ③巨額の外国直接投資呼び込み

 17年のロシアへの外国直接投資額は約230億ドル。多いのか少ないのか判断に迷うが、例えば隣国ウクライナへの直接投資は17年に約40億ドル。トルコへは約1200憶ドルだ。

 ロシアがウクライナのクリミアを併合した14年以前のロシアへの直接投資は約550億ドル(11年)、約505億ドル(12年)、約692億ドル(13年)と推移し、14年に約220億ドル、15年に約68億ドルまで落ち込んだ。投資を呼び込んだことは事実だろうが、クリミア併合以前の水準との差はまだ大きい。

 ④若者がロシア発展の原動力

 若者が社会で活躍しているか否かの一つの指標は、失業率だ。17年のロシアの失業率は5・5%。12年以降、5・2%から5・6%の間で推移しており、諸外国と比べても健闘している数字だろう。

 しかし、全ロシア世論調査センターが12月18日、世論調査を基に公表した失業率は、公式統計の2倍となる11%だった。どちらが実態により近いのかは不明だが、政府公式発表にケチがつけられた形となった。

 ⑤ロシアW杯への順調な準備

 14年のソチ五輪ではインフラ整備を含めば500億ドル(約4兆8700億円)という、夏季五輪を含めて史上最高の資金が投入された。

 その一方で汚職の批判は絶えず、国際スキー連盟(FIS)のカスパー会長はこの開催費のうち、3分の1が横領など汚職に消え、適正に使われていないと批判した。

 18年ロシアW杯への準備が順調に進んでいるならば歓迎すべきだが、にわかには信じられないことも事実だろう。