来春の露大統領選、クレムリンが描くシナリオか

 来年3月に行われるロシア大統領選の構図が決まりつつある。プーチン大統領に対抗し立候補を表明していた野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の立候補資格停止が確定する一方で、プーチン大統領の恩師の娘、クセニア・サプチャクさんが立候補を表明した。クセニアさんは反政権の立場だが、背後でクレムリンとつながっているとの見方もある。
(モスクワ支局)

大統領の恩師の娘が立候補表明
野党指導者の出馬資格は停止

 次期大統領選まで4カ月余りとなったが、プーチン大統領は未だ出馬を明言していない。もっとも、プーチン大統領が出馬し4選を果たすことを疑う声は見当たらない。ロシアのテレビで流れる政治トークショーでは、2018年の大統領選ではなく、その次の大統領選が行われる2024年のロシアについて語られている。

 ただ、だからといって課題がないわけではない。その課題とは、選出される大統領の“正統性”である。

 選挙に緊張感がなければ投票率は下がり、「国民の大多数に選ばれた大統領」という正統性に傷が付く。

 また、政権に批判的なリベラル派から有力候補が出馬せず、対立候補の顔触れが、クレムリンの息の掛かった者たちで占められるなら、欧米などがロシアを見る目はさらに厳しいものとなろう。

 ちなみに最大野党のロシア共産党は、クリミア併合でプーチン政権を支持しており、“政権内野党”などと揶揄(やゆ)されている。

 2018年大統領選に、最も早く出馬を表明したのは、ロシア政府の汚職追及やプーチン批判で知られる野党指導者ナワリヌイ氏だ。そのナワリヌイ氏は今年2月、横領罪で有罪判決を受けた。ロシアでは、有罪判決を受けた被告は大統領選に立候補できない。

ナワリヌイ氏

2014年末に詐欺などの罪で有罪判決を受けた反プーチン指導者ナワリヌイ氏(onlinenews itから)

 もっともクレムリンは、ナワリヌイ氏を出馬させる選択肢を最近まで検討していたとされる。ナワリヌイ氏の出馬で投票率は上がる。民主的な選挙を演出することもできる。親欧米的なナワリヌイ氏の言動が、クリミア併合などで高揚するロシアの愛国心を刺激し、プーチン大統領の得票を増やすとの計算もあった。加えて、もし不測の事態になれば、有罪判決を理由に、いつでも大統領選から排除できるとの利点もあった。

 しかし、10月半ば頃までにクレムリンは、最終的に、ナワリヌイ氏の除外を決定したようだ。中央選管のパンフィロワ委員長は「彼が立候補できるのは2028年以降」と言明した。

 ロシアの政治学者らは、クレムリンは万が一のリスクも回避する選択をしたと分析。その上で、対立候補はジュガーノフ共産党委員長やロシア自由民主党のジリノフスキー氏など“常連”になるだろう、との見方を示した。

 そのような中で出馬を表明したのが、プーチン大統領の恩師の娘で、タレントとしても知られるクセニア・サプチャクさん(35)だ。

 クセニアさんの父の故アナトリー・サプチャク元サンクトペテルブルク市長はプーチン氏の大学時代の恩師。プーチン氏を市の要職に登用し、政界入りのきっかけをつくった。

 クセニアさんはナワリヌイ氏を支持しており、反プーチンデモに参加したこともある。

 クセニアさんの選対本部には、ベラルーシ系の著名政治コンサルタント、シクリャロフ氏が加わる見込みだ。シクリャロフ氏は、2016年米大統領選に向けた民主党予備選に立候補したサンダース上院議員の選対本部メンバーで、メルケル独首相やオバマ前米大統領の選対本部で働いた経歴の持ち主だ。

 当然、コンサルタント料は高額で、数万ドルに達するとみられる。また、クセニアさんは無所属候補のため、30万人の支持者の署名提出が立候補の条件だ。署名集めには多額の費用が掛かり、必要な選挙資金は最大で10億ルーブル(約19億円)とみられる。

 大富豪でもないクセニアさんが、どのように資金を調達するのか。一部で語られているのは、クセニアさんの出馬は、民主的な選挙を演出するため、ナワリヌイ氏に代わるリベラル派候補を擁立しようというキリエンコ大統領府第1副長官のシナリオで、選挙資金もクレムリンが提供するというものだ。

 一方、クレムリンの別のグループは、プーチン大統領の選挙キャンペーンを「欧米との対決」に絞り込むシナリオを描いているとされる。大統領選の投票日は、クリミア併合4周年に当たる3月14日。国民の愛国心をさらに鼓舞し投票率を高め、プーチン圧勝を導く目論見(もくろみ)だ。この場合、クセニアさんが出馬する意味合いは薄れる。