露、トランプ大統領就任を歓迎
トランプ米大統領の就任を、最も歓迎している国の一つがロシアだ。シリア和平などで米国との協力を深め、ウクライナ危機を受け欧米が科す対露制裁の解除につなげたい考えだ。国内でも欧米を敵視するようなプロパガンダが消え、協調路線を後押しする構えだ。(モスクワ支局)
早くも「経済危機は過ぎた」とのムード
対欧米政策にも軟化の兆し
昨年11月の米大統領選でトランプ氏の当選が決まった瞬間、ちょうど開会中だったロシア下院では、大きな拍手が沸き起こった。こんなエピソードを引っ張り出すまでもなく、クレムリンは米露関係の改善に向け、トランプ新政権に大きな期待を寄せている。トランプ大統領はこ れまで何度もロシアとの友好関係回復と協力に言及し、プーチン大統領を称賛する発言さえもあった。
もっとも、米露関係の改善や対露経済制裁の解除に向け、事がそう簡単に運ぶとは、クレムリンも考えてはいない。「冷戦後最悪」ともいわれる現在の米露関係はオバマ政権との間で形成されたが、オバマ政権も発足当初はロシアとの関係改善を打ち出していた。
同政権発足直後の米露外相会談で、クリントン国務長官がロシアのラブロフ外相に、冷え込んだ米露関係を仕切り直す意を込めて「リセットボタン」を贈り一緒に押したが、そのロシア語表記がリセットではなく、過積載を意味する「ペレグルースカ」になっていたことを思い出す。ブッシュ米政権でも、米露関係は当初は良好だった。
ロシアの一部の専門家は、対露制裁の解除や劇的な米露関係改善に期待すべきではないと指摘する。トランプ大統領はタフネゴシエーターであり、手ごわい政治家・ビジネスマンである。対露経済制裁は米国が主導しているが、そもそもウクライナのクリミアをロシアが併合し招いたものである。ロシア側、ウクライナ側どちらも解決に向け、何らの譲歩も行おうとはしておらず、制裁を解除する理由がない――というものだ。
そのような見方が一部にあるものの、トランプ氏が大統領選で勝利して以降の2カ月余りで、ロシア社会の雰囲気はすでに大きく変わっている。
2014年の対露経済制裁開始からしばらくの間、「ロシアは単独で自活が可能だ」「これを機会に国内農業を強化する」と強気な発 言を行ってきた政府高官らは、しばらくすると、愛国主義的な発言や、ロシアの経済困難の責任を特に米国に転嫁する発言を繰り返すようになった。
その彼らが今、テレビなどで語っているのは、米国民がロシアの子供と養子縁組することを全面禁止したロシアの法律「ディーマ・ヤコブレフ法」の廃止について、などである。同法はもともと、米国が、人権侵害のあるロシア人へのビザ発給の禁止などを定めた「マグニツキー法」を制定したことへの報復として制定された。その法律を廃止せよとは、米国との関係改善を進めるべきだとの主張に他ならない。
プーチン政権の対外政策も、穏健な方向に進みつつあるようだ。ロシアを訪れた旧ソ連・モルドバのドドン大統領は、欧州連合(EU)加盟を視野 にモルドバがEUと結んだ「連合協定」を破棄する考えを示した。一方でプーチン大統領は、「ロシアが受け入れられる条件の下で」と釘(くぎ)を刺したものの、モルドバとルーマニアの関係拡大に反対しない考えを示した。
ルーマニアとモルドバはかつて統一国家だった時代もあり、ルーマニアは両国の統合を推進している。プーチン大統領は条件付きながら、その動きを認めた形だ。欧米との関係改善を視野に入れた動きとみられる。
ロシアの経済政策も、欧米との関係改善を見据えたものとなりつつある。昨年末からリベラル派を中心とする政府高官らは、原油価格が上昇に転じたことと、トランプ氏の大統領選勝利を受け、「経済危機は過ぎ去った」と分析。政府の経済プログラムも、早期に欧米との関 係を改善し、経済成長のための資金と技術を得る方向へと舵(かじ)を切った。
ロシア財務省は、ロシアの経済成長率が1.5%に達すると見込み、経済発展省は2%に達すると期待を示している。また、経済危機を受けた国営産業支援の施策を、2017年には実施しないと決定した。