ロシア下院選18日に実施、クレムリン「公正な選挙」演出に力点
ロシア下院選(任期5年、小選挙区比例代表併用、定数450)が18日に実施される。現在の下院は与野党4党で構成されるが、4党すべてがプーチン大統領を支持する「翼賛体制」。プーチン大統領が4選出馬するとみられる2018年3月の大統領選の前哨戦とされ、政権与党「統一ロシア」が単独過半数を獲得するかが焦点となる。(モスクワ支局)
予備選導入、小選挙区制を復活
18年大統領選にらみ与党単独過半数狙う
本来ならば今回の下院選は、12月に行われるはずだった。しかし、年末にかけて行われる来年度予算編成作業が選挙と重なり日程的に難しい、との理由で、9月に前倒しされた。
ただ、この「予算編成作業が」というのは口実にすぎない。1993年の下院選挙(上院と同時に実施)以来6回を数える下院選挙は12月に実施されているが、予算編成作業に大きな負担を掛けていると話題になったことはなかった。
下院選挙を9月に前倒しするイニシアチブを取ったのは、自由民主党(LDPR)のジリノフスキー党首。同氏はクレムリンの声と呼ばれ、過激な発言で知られる一方で、政権の意向を代弁する役割を担っているとされる。
クレムリンが警戒するのは、前回の2011年12月の下院選で不正があったとして、直後に発生した数万人規模の抗議デモが再現されることだ。この抗議デモは「反プーチン・デモ」に発展し、12年3月の大統領選まで続いた。また、この下院選で、選挙前に315議席を有していた政権与党「統一ロシア」は、238議席と議席を大幅に減らした。
ロシアの9月は、夏の休暇シーズンがまだ続いている時期であり、都市の住人の中には休暇に出掛けている人々も多い。一方で農村地域は、収穫で忙しい季節だ。政治的な関心が高まりにくい時期であり、前回のような大規模な混乱は起こりにくいとの読みがあろう。
また、組織票に強みを持つ統一ロシアは、投票率が低い方が議席を獲得する傾向がある。9月への下院選前倒しは、クレムリンに有利な状況をもたらすことになる。
もっともクレムリンも、下院選を9月に前倒しすれば問題がすべて解決するとは思っていない。前回下院選後の抗議デモを繰り返さないよう、「公正な選挙」の演出に力を注いでいる。
その一環が、統一ロシアが初めて導入した「予備選挙」だ。候補者同士の討論会を各地で開催し、党員の投票で候補者を選出している。候補者選出のプロセスをオープンにすることにより、有権者を納得させようという試みだ。
小選挙区制度の復活もそうだ。下院定数の半数225議席を小選挙区から選出する。小選挙区では政党の組織力だけでなく、候補者個人の知名度や人気が選挙結果に直結する。比例代表制と違い、顔の見える候補に投票することになり、有権者はより「公正な選挙」と感じるとみられる。
今回の下院選は、プーチン大統領が4選に出馬する公算が大きい2018年3月の大統領選の前哨戦となる。統一ロシアが単独過半数を獲得し、大統領の支持基盤を盤石にすることが、今回の下院選の最大の目標だ。
同時に、中長期的に政権を維持する政治モデルを構築することも、重要な目標とされる。
プーチン大統領の支持率は、ウクライナのクリミア半島編入でそれまでの6割程度から8割程度に上昇した。主要輸出品であるエネルギーの価格低迷や欧米の経済制裁で、ロシア経済は大きな打撃を受けているが、それでもプーチン大統領は高支持率を保っている。
メディアを駆使し国民の愛国心を鼓舞し、経済危機の責任を欧米に転嫁することで、プーチン大統領は高い支持率を維持しているが、それがいつまでも続く保証はない。だからこそ今回の下院選で「公正な選挙」を前面に出し、新しい政治モデルを模索しているのだ。プーチン大統領が進める汚職摘発キャンペーンも、「公正さ」の演出であり、求心力を維持する仕掛けだ。この流れの中で、プーチン大統領は下院選後に大規模な政権人事に踏み切るとみられる。
もっとも、「公正な選挙」を演出するといっても、プーチン政権を批判する野党が下院で議席を獲得するかは疑問だ。
現在の下院は、与野党4党すべてがプーチン大統領を支持する「翼賛体制」。2007年の下院選から完全比例代表制が導入され、加えて、議席獲得に必要な得票率「阻止条項」が7%に引き上げられた。プーチン政権を批判する少数野党は極めて厳しい状況に追い込まれ、議席を失った。
「阻止条項」は今回から5%に引き下げられたが、下院から締め出された野党勢力は弱体化しており、比例代表で議席を獲得する可能性は非常に低いとみられている。






