反政権勢力を壊滅状態に 露下院選、政権与党勝利へ

サイトの取り締まりも強化

 ロシア下院選挙(定数450、任期5年)が17日から19日の日程で行われる。プーチン政権与党「統一ロシア」の支持率は低迷しているが、3分の2前後の議席を確保する見通しだ。一方で反政権勢力は壊滅状態にある。収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の支援団体は6月に過激派と認定され、同氏らが運営する、与党候補以外の候補への投票を呼び掛ける「賢い投票」サイトも、政府により接続をブロックされた。(モスクワ支局)

ロシアの反体制派指導者ナリヌワイ氏

ロシアの反体制派指導者ナリヌワイ氏2月20日、モスクワ(AFP時事)

 ロシアの次期大統領選は2024年。旧憲法下では任期制限によりプーチン大統領は次期大統領選に出馬できなかったが、昨年7月の改正で可能となった。その次期大統領選は、今回の下院選挙の結果を受けた議会の下で行われる。与党「統一ロシア」が議席の3分の2を占めることは“絶対条件”とも言われており、ナワリヌイ陣営など反体制派を壊滅状態に追い込んだのも、このためだろう。

 統一ロシアの現有議席は334で、下院のほぼ4分の3を占める。しかし、貧富の差の拡大や、社会の閉塞感の高まりを受け、8月末時点での支持率は30%前後に低迷しており、前回の2016年下院選時よりも10ポイントほど低い。

 選挙を前にテコ入れが必要だ。プーチン大統領は先月22日、統一ロシア幹部との会合で、年金生活者に一時金1万ルーブル(約1万5000円)、軍関係者に1万5000ルーブル(約2万2000円)を9月に支給すると発表した。年金の平均月額は1万7500ルーブルであり、ちょっとしたボーナスだ。

 クレムリンに近い政治学者らはこれらの影響を加味し、統一ロシアは293から305議席を獲得すると分析している。統一ロシア以外で議席を獲得するのは、ロシア共産党、ロシア自由民主党、公正なロシアの3党と見られており、今の下院と同じである。これら3党は「体制内野党」と呼ばれ、政権に従順だ。

22日、モスクワで開かれた与党・統一ロシアの会合で話すプーチン大統領(AFP時事)

22日、モスクワで開かれた与党・統一ロシアの会合で話すプーチン大統領(AFP時事)

 プーチン政権の発足以降、クレムリンは下院選のたびに民意を操作する試みを繰り返してきており、その手法はほぼ完成したと言えるだろう。それほど多くはないが国民の一部は、権威的体制は排除され、民主主義体制になるべきだと考えている。クレムリンの狙いはこのグループに属する国民を可能な限り減らすことにある。

 グループの筆頭がナワリヌイ氏だ。同氏を投獄し、その幹部も投獄するか、投獄されるリスクとともに生きる状況に追い込んだ。今年6月に、ナワリヌイ氏率いる「汚職との戦い基金」など3団体を過激派と認定し、その活動を非合法としたのだ。

 さらに、同陣営が運営する、与党候補以外の候補への投票を呼び掛ける「賢い投票」サイトも、接続をブロックした。ナワリヌイ氏支持者個人にも圧力を加えている。人権団体「OVD-Info」によると、8月17日から9月1日までに、モスクワなど11の地方で、ナワリヌイ氏の支持者1421人の自宅を警官が戸別訪問した。

 ラトビアを拠点とするロシア語メディア「メドゥーザ」は、クレムリン関係者が4月、ナワリヌイ氏釈放運動サイトのデータベースをハッキングしたと報じた。警官の戸別訪問は、このデータベースを元に行われたとみられる。このハッキング以降、ナワリヌイ氏支持者が勤務先で不当な扱いを受け、解雇されるケースも相次いでいる。

 このほか、「外国エージェント法」によるメディアの取り締まりも強化され、6月には政権を批判していた独立系ネットメディアが閉鎖に追い込まれた。同法は昨年12月に改正され、外国から資金を受け活動する団体や個人が自らを「外国エージェント」と明示することを義務付けるなど、より厳格化された。