ロシアでコロナ感染第3波
ロシアで新型コロナウイルス感染が再拡大している。国産ワクチンへの不信感は根強く、プーチン大統領が接種を呼び掛けるものの進んでいない。政府は事実上の「強制接種」を進め、9月の下院選に向け、落ち込んだ経済活動の回復を図る構えだ。
(モスクワ支局)
届かぬ大統領の接種呼び掛け
国産ワクチンに根強い不信
ロシアは感染拡大第3波に直面している。6日の新規感染者数は2万3378人で、死者数は過去最多の737人に達した。累計感染者数は5682万2634人、累計死者数は14万人を超えた。
1日当たりの死者数は欧州連合(EU)や米国の約3倍の水準だ。EUの人口4億4600万人、米国の3億3200万人に対し、ロシアの人口は1億4400万人であるにもかかわらずだ。専門家は第3波の死者数を、第1波、第2波を大きく超えると予測する。
第3波の背景には、インドで確認された感染力が強い変異ウイルス「デルタ株」の流行と、ワクチン接種の遅れがある。ロシアのワクチン接種率は6日時点で12・41%と、ワクチン接種が遅れているといわれる日本の15・06%を下回る。
ロシアは昨年8月、国産ワクチン・スプートニクVを「世界で初めて」承認し、12月にはモスクワで、1月には全国で大規模接種を開始した。欧米に先駆けて「ワクチン外交」を展開したいという思惑もあっただろう。旧ソ連諸国だけでなく、中南米、中東、アフリカにスプートニクVを輸出しており、現地生産も進められている。
しかし、スプートニクVが承認されたのは、安全性と有効性を検証する最終段階の治験が完了する前だった。大規模接種の開始も同様であり、「約92%の予防効果が確認された」という治験結果が出されたのは2月になってからだ。
そもそも、昨年8月に「世界初」のワクチンとしてスプートニクVの一般向け接種承認を発表したのはプーチン大統領だが、自らは接種しなかった。これについてペスコフ大統領報道官は「国家元首が(治験)ボランティアとして接種に参加することは不可能だ」と説明しており、多くのロシア人が首をかしげた。
当然ながら、ロシアの人々の間には国産ワクチンへの不信が広がり、大規模接種を行ったにもかかわらず、3月中旬のワクチン接種率は約4%だった。ロシアで承認されているワクチンは国産のみで、米ファイザー製や米モデルナ製などは望んでも接種できない。
3月23日になって「プーチン大統領が国産ワクチンを接種した」との発表があったが、接種したワクチンの種類は明らかにされず、接種の写真や動画も公開されなかった。
6月に入り感染が再拡大する中、モスクワなど10の市や州ではサービス業の事業主に対し、従業員の6割以上のワクチン接種を義務付けた。接種を拒んだ従業員は解雇される可能性がある。
プーチン大統領は30日、テレビ番組で、国産ワクチンの安全性を訴えた上で、「ロックダウン(都市封鎖)を避けるため」として、接種義務化に理解を求めた。その一方で「私の接種映像の公開は重要ではない。腕でない場所に注射していても見せろというのか」と、映像の公開は拒否した。
世論調査機関「レバダ・センター」が6月末に行った調査では、回答者の52%が「ワクチン強制接種に反対」、41%が「どんなことがあっても接種を受けない」、24%が「全ての治験が完全に終わった後なら接種を受ける」、7%が「接種しないと解雇されるなら受ける」と回答した。「強制接種」への反発は極めて強い。
ロシアは9月に下院選を控え、落ち込んだ経済の回復を急ぐ必要に迫られている。経済に打撃を与えるロックダウンを回避するためにも、「強制接種」を押し進める構えだ。