ネット規制強化に進むロシア
ロシアで2011年以降に強まってきたインターネット規制が、さらに強化される方向にある。プーチン政権は「児童保護」を理由としているが、野党勢力がネットを通じて勢力拡大を図ったり、反政府デモを呼び掛けたりすることを封じ込めるのが狙いとみられる。並行して既存の政府系メディアへの予算を拡充し、政府の発信力強化も推し進めている。
(モスクワ支局)
9月下院選に向け封じ込めか
既存政府系メディアの予算拡大

ロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏がインターネット動画でプーチン大統領のものと主張した黒海沿岸の「宮殿」ロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏がインターネット動画でプーチン大統領のものと主張した黒海沿岸の「宮殿」=1月25日再生のナワリヌイ氏のユーチューブチャンネルより(AFP時事)
ロシアが原油価格の高騰などで経済成長を続け、プーチン政権が高い支持率を保っていた2000年代初め、ロシアには比較的自由なネット空間が存在していた。
その転機は11年の「ロシア反政府運動」だった。同年12月に行われた下院選挙の不正投票疑惑に反発する市民が参加した、大規模な反プーチンデモのことだ。
そして14年、ウクライナ政変で親露ヤヌコビッチ政権が打倒された際、野党勢力はインターネット・SNS(ソーシャルネットワークサービス)を通じて市民に呼び掛け、反政府運動をオーガナイズした。
これらを目の当たりにしたプーチン政権は、インターネットは国家にとって危険な存在となり得ること、そして、その危険性からロシアという国家を守らなければならないと明確に認識した。
ロシア国内の接続業者に対し、トラフィックを管理する機器の導入を義務化した。その後も次第にインターネットへの規制は強化され、19年11月、ロシアのインターネットを国外のサーバーから切り離すことを可能にする「インターネット主権法」が施行された。
ロシア・インターネット保護協会のミハイル・クリマレフ代表は次のように語っている。「刑事罰では不十分だ。なぜなら、それだけでは国民全員を脅かすことはできないからだ。だから政府は、彼らにとって望ましくない情報にあらかじめフィルターを掛けようと試みているのだ」
ロシアの反政権指導者であり、昨年毒殺未遂に遭ったアレクセイ・ナワリヌイ氏が今年1月17日、帰国と同時に拘束されたことを受け、ロシア各地で抗議デモが行われた。ナワリヌイ陣営はさまざまなSNSでデモ参加を呼び掛けた。
ロシア政府は27日、「未成年者への無許可集会への参加呼び掛けの拡散を抑える要請に従わなかった」として、これらSNSの運営会社に最大で400万ルーブル(約600万円)の罰金を科すと発表。さらにプーチン大統領は、ロシアに対する敵対的な行為が行われた場合、外国のインターネットサービスを遮断する可能性も示唆した。
その後、プーチン大統領は、児童や若年者を守るためとして、インターネットを危険視する発言を頻繁に繰り返すようになった。
「犯罪者は新しい技術や手段を使う。昨年発生したサイバー攻撃の件数は前年比3・5倍となった。治安機関にはネット空間の犯罪に対する戦略が必要だ」(2月24日、連邦保安局幹部会議)
「インターネットは、児童ポルノや売春、未成年者を自殺に追い込むなど、エゴイスティックな目的を達成する手段として使われている。児童・未成年者が狙われていることを忘れてはならない」(3月3日、内務省幹部会議)
一方で政府は3日、テレビ、ラジオなど国営メディアへの予算を大幅に拡充する方針を明らかにしている。無論、サイバー犯罪との闘いは重要であり、子供たちを児童ポルノなどの犯罪から守らなければならないのも当然である。
しかし、それが、ロシアのインターネットを国外のサーバーから切り離す可能性を示唆したり、野党勢力が未成年者にも送った呼び掛けをことさらに取り上げ、SNS業者に罰金を科したりすることと、どうつながるのか。
ナワリヌイ陣営の街頭デモは治安当局に制圧された。しかし、ネットを通じて「統一ロシア」候補以外の候補への投票を呼び掛ける「賢い投票」運動を、今年9月の下院選に向け再び行う見込みだ。ネット空間でも野党勢力を封じ込めるのが、政権の狙いであることは間違いないだろう。





