ベラルーシ大統領選1カ月 続く抗議活動
ベラルーシで8月9日に行われた大統領選の結果をめぐり1カ月以上にわたり抗議運動が続く中、状況を見極めていたロシアはルカシェンコ大統領を支持することを決めた。同大統領と取り引きし、ベラルーシを事実上統合する形でのロシア・ベラルーシ連邦国家を実現する構え、との見方が出ている。
(モスクワ支局)
露はルカシェンコ氏支持
連邦国家」で事実上統合が狙いか
ロシアと中欧を結ぶ回廊に位置するベラルーシ。26年にわたり同国に君臨するルカシェンコ大統領は強権的な政治手法を駆使し、反対派を弾圧するとともに、ソ連時代さながらの社会主義経済政策を進めてきた。
大統領選では事前に野党の有力候補を拘束、立候補登録拒否などで排除し、公式発表によると約80%の得票で6選を果たした。しかし、不正選挙を訴える市民が大規模な抗議活動を繰り広げ、治安部隊との衝突で3人が死亡、多くの逮捕者を出した。
抗議活動は大統領選から1カ月を過ぎても継続し、首都ミンスクでは毎週末、10万人規模の抗議デモが行われている。治安部隊が抗議活動参加者を逮捕するなど押さえ込みを図っているが、市民の反発は根強い。
ロシアのプーチン大統領は8月10日、中国の習近平国家主席、カザフスタンのトカエフ大統領に続いて3番目に、ルカシェンコ氏の当選を祝う電報を送った。しかし、その文面は形式的で、それから約2週間をかけて情勢を見極めていた。
重要なのは、時間を置くことで、ルカシェンコ氏に協力する見返りを吊り上げることだ。プーチン氏は27日、ベラルーシの治安を維持するために、ロシアの治安機関職員からなる予備役部隊を創設すると発表。事あらばロシアが実力介入することを諸外国、そしてベラルーシ市民に示した。そして29日、ルカシェンコ氏が当選した大統領選の正当性を承認すると発表した。
ロシアとベラルーシは1999年に「ロシア・ベラルーシ連邦国家創設条約」を締結し、同条約は2000年に発効した。ルカシェンコ氏は、健康不安を抱えていたエリツィン大統領(当時)をうまく説き伏せ、自らが連邦国家の最高指導者に就任する手はずを整えた。
しかし、エリツィン氏の後継者であるプーチン大統領は「なぜ国力が20分の1以下のベラルーシと対等なのだ」と反発。両国の統合プロセスは停滞したままになっている。もしベラルーシで野党勢力が政権を握れば同国は欧米に接近し、将来的にNATO(北大西洋条約機構)のさらなる東方拡大をも招きかねない。結局はルカシェンコ氏に掛け金を積むしかないのだが、一筋縄ではいかないルカシェンコ氏を従順にさせる必要があった。
ロシアの著名な政治学者ワレーリー・ソロブェイ氏は、ベラルーシ情勢の展開について、次のように語っている。
「ルカシェンコ氏はあと1年、大統領を続けて憲法を改正し、繰り上げ大統領選を実施する。その大統領選にルカシェンコ氏は出馬しない。一方でルカシェンコ大統領は任期中に、新たなロシア・ベラルーシ連邦国家条約に調印する。この条約は事実上、ロシアがベラルーシを統合する形での連邦国家を実現する。ベラルーシに新しい大統領が就任するが、事実上ロシアが同国をコントロールする」
またソロブェイ氏は、クレムリン筋の情報として、ルカシェンコ氏にはロシアの国家評議会のポストが約束されたと述べた。
2014年のウクライナ争乱で失脚したヤヌコビッチ大統領は国家反逆罪や公金横領などで禁固13年の判決を受けており、ロシアに亡命している。ルカシェンコ氏も失脚すれば、同様に犯罪者として裁かれるのは必至だ。ソロブェイ氏の指摘が事実ならば、ルカシェンコ大統領は自らの保身のために国を売ったことになる。このシナリオを実現するためには、ベラルーシの野党勢力を徹底的につぶしておく必要がある。
ロシアの後ろ盾を得たルカシェンコ政権は、野党勢力への弾圧をさらに強化した。強制出国、逮捕などにより、抗議活動の司令塔・調整評議会の幹部で残ったのはノーベル文学賞受賞者のアレクシィエビッチ女史(72)のみとなっている。