イスラエル総選挙 「青と白」が第1党に

大連立難航か、再々選も

 イスラエル総選挙(国会定数120)の再投票が9月17日に実施された。ガンツ元軍参謀総長率いる中道政党連合「青と白」が第1党、ネタニヤフ首相が率いる与党の右派リクードはわずかに及ばず第2党となった。リブリン大統領はネタニヤフ氏に組閣を要請するとともに、「大連立」へ両者の対話を呼び掛けたものの、連立協議は難航が予想されている。(エルサレム・森田貴裕)

ガンツ氏、協議に難色
汚職疑惑のネタニヤフ氏の退陣要求

 開票結果は、「青と白」が33議席、リクードは32議席。イスラエルの人口の約2割を占めるアラブ系の4政党の連合「アラブ連合」が13議席で第3党と健闘した。

ネタニヤフ首相(左)とリブリン大統領

9月25日、エルサレムの大統領公邸で組閣要請を受けたネタニヤフ首相(左)とリブリン大統領(UPI)

 4月の選挙では、ネタニヤフ氏のリクードとガンツ氏の「青と白」が共に35議席を獲得。ネタニヤフ氏に組閣が命じられ、従来の右派連立政権を樹立できるかに見えた。

 ところが、極右「わが家イスラエル」を率いるリーベルマン前国防相が、ユダヤ教の戒律を厳格に守る超正統派ユダヤ教徒に対する徴兵免除など優遇政策の撤廃を求め、連立政権入りを拒否。ネタニヤフ氏主導の連立協議は頓挫し、議会の解散と再選挙へと進むこととなった。

 イスラエルでは1948年の建国以来、単独で議席の過半数を獲得した政党はない。リブリン大統領は、議席を獲得した9政党の代表者と協議し、連立政権発足に向けて誰を支持するか意見を聴いた。右派や宗教政党からネタニヤフ氏を首相候補として推薦する声が55議席となり、ガンツ氏を支持するアラブ系政党を含む中道・左派勢力の54議席をわずかに上回った。両氏とも過半数には届かないため、リブリン氏は、リクードと「青と白」両党の「大連立」がふさわしいと判断。両氏に対話を呼び掛け、ネタニヤフ氏に組閣を要請した。

 ただ、リクードとの連立の条件として、ネタニヤフ氏の退陣を要求してきたガンツ氏は、連立協議で難色を示している。「青と白」のガンツ氏は選挙戦で首相の汚職疑惑を批判し、ネタニヤフ政権打倒を訴えてきたのだ。

 リブリン氏は、ネタニヤフ首相が公判で不在になっている間はガンツ氏が首相となり、その後も交代で首相を務めるという妥協案を提示した。

 イスラエルでは1980年代に挙国一致政府で、左派労働党のシモン・ペレス氏と右派リクード前党首のイツハク・シャミル氏が交代で首相を務めた前例がある。

 ネタニヤフ氏は汚職容疑で検察の調査を受けている。警察は昨年12月に、ネタニヤフ氏がイスラエル最大手通信企業の経営上の便宜を図った見返りに、同社傘下のニュースサイトで自身を好意的に報じるよう求めた上、賄賂も受け取った疑惑で検察に起訴するよう勧告した。さらに今年2月にも実業家から高額品を受け取ったり、地元有力紙に便宜を図る見返りに好意的な報道を求めた疑いなど合わせて3件の疑惑で起訴を勧告した。検察も数年間ネタニヤフ氏の疑惑について調査しており、検察長官は年内に正式に起訴するかどうか判断するという。

 ネタニヤフ氏はすべての容疑を否定しており、自身を首相の座から引きずり降ろそうとする「魔女狩りだ」と批判している。

 テレビの世論調査によると、圧倒的多数のイスラエル国民は、起訴されるような首相や3度目の総選挙を行うことには反対している。

 ネタニヤフ氏は、連立交渉の突破口を開くため、ガンツ氏と順番に首相となる輪番制を提案したというが、それでも組閣できない場合は、ガンツ氏にその命が回ってくるだろう。1年で3度目の総選挙を行う可能性もある。イスラエルは現在、建国史上最悪の政治危機に直面している。