中国のウイグル強制収容所 「ナチ以上の国家犯罪」

 100万人以上とされる中国新疆ウイグル自治区の強制収容の実態を語るウイグル人証言集会(主催=日本ウイグル協会)が先月30日、参議院議員会館で行われた。証言者の一人は「ナチ以上の犯罪行為に対してもっと声を上げていただきたい」と訴えた。
(池永達夫)

在日ウイグル人、現地の姉に「連帯責任罪」

 来日して17年のレテブ・アフメット氏(日本国籍で東京在住、日本ウイグル協会理事)は、2017年6月以降、家族と連絡がとれない。親族への電話はつながるが、誰も怖くて電話に出られないのか、いないのか分からないという。新疆では外国人と電話をしたり、メッセージを交換したりするだけで、強制収容所送りの条件になっており、海外からの電話は出たくても出られない状態が続く。

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ウイグル強制収容の証言集会で語るグリスタン・エズスさん=9月30日、参議院会館

 アフメット氏は「父と弟が収容されたが、その後、出て来たのか、そのままなのかも全く分からない」と言う。家に1人取り残された可能性が高い母親を危惧したアフメット氏は昨年、新疆まで旅するという日本人旅行者に安否確認の望みを託した。だが、旅行者は大都市間の移動は可能だが、この日本人は母親が住むローカルな町には入り口で公安に止められ入れなかった。

 アフメット氏は「結局、最後の望みも実らなかった。現地まで足を運ぶ一般の旅行者でもアクセスできない。あらゆる通信も断ち切っている」と嘆き、「なぜそこまでするのか。それは、人に知られたらまずいとの自覚があるからだ。だから必死に隠そうとする」と、中国政府を断罪した。

 そろって教員をしていた叔父夫婦などアフメット氏の親族12人が2年前、強制収容所に送り込まれて以後、消息は分かっていない。中国政府は「家族といつでも会える。帰りたい時にはいつでも帰れる」と言うが、アフメット氏は「全部、でたらめだ。12人は拉致されたのと同じだ」と訴えた。

 千葉県在住のグリスタン・エズスさん(30代、日本国籍)の弟アスカル・ベキリ氏(22)は2年前、新疆の高校を卒業した後に強制収容所へ送り込まれた。

 「もしかしたら、臓器を取られる対象になってしまうのではないか」と危惧したエズスさんは昨年、東京でこの事実を証言した。

 その2日後に姉から連絡が入った。姉が現地の警察に呼び出され「妹(エズスさん)が外国にいるのだな」と確認した上で「私の罪状は国家転覆扇動罪」だと伝えた。さらに中国政府は、世界のどこにもない連帯責任という罪をエズスさんの姉にかぶせた。

 なおエズスさんは、「ナチ以上の犯罪行為に対してもっと声を上げていただきたい。在日ウイグル人は中国大使館に行っても、パスポート更新を拒否され国に帰れと言われる。日本滞在資格もない。せめて日本にいるウイグル人たちの保護をお願いしたい」と行き場のない同胞救済を訴えた。

 ここでいう強制収容所は、中国では「職業技能教育研修センター」という名称となっている。新疆ウイグル自治区で14年以降、正式に政策として導入された。習近平政権誕生から2年目のことだ。きっかけは同年4月30日に新疆ウイグル自治区の主要鉄道駅ウルムチ南駅で起きた「爆破テロ事件」だったとされる。この事件は、習氏が国家主席となって初めて新疆ウイグル自治区を視察し、その最終日にウルムチ南駅近くを訪れた直後に発生した。

 習主席一行に被害はなかったが駅にいた乗客らが巻き込まれ、新華社通信によれば、刃物を振り回す集団が次々と人を襲った後、体に巻き付けた爆弾を爆発させたという。犯人2人は即死だった。習主席はその後、「イスラム教の中国化」「ウイグル人の思想再教育推進」を強く訴えた。

 中国政府は収容所ではなく、あくまで職業訓練センターだと強弁する。だが、職業訓練所であるなら高い塀と有刺鉄線で仕切られ、監視塔がなぜ必要なのか説明できない。カザフスタンなどの国籍だったため運良く強制収容所から外国に逃れた人々によれば、施設は学校どころか刑務所のように運営されているというのが一致した証言だ。

 ポンぺオ米国務長官は「(強制収容所は)テロとは関係がなく、自国民の文化と信仰を消そうとしているものだ」と弾劾する。