トルコ、ロシアから地対空ミサイル導入

ロシアが中東での覇権拡大へ

 米国防総省は7月17日、米最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除すると発表、米政府は、F35の機密情報がロシア製地対空ミサイルシステム、S400を通じロシア側に漏れることに懸念を示した。米国からの度重なる要請にもかかわらず、トルコがS400導入に踏み切ったことは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国全体にも影響が及ぶ。加盟国の一国にロシア製の兵器が導入されるという異常事態に直面するからだ。
(カイロ・鈴木眞吉)

NATOヘの影響大

 トルコは1952年に、対共産圏同盟としてのNATOに加盟、ソ連の東地中海地域への影響力拡大を防ぐ「防波堤的役割」を担ってきただけに、ロシアはこれを好機とし、トルコを抱え込み、中東での覇権拡大の勢いを増す可能性が高い。NATOは、トルコとの従来の軍事協力を見直さざるを得なくなるとみられる。

ロシアの対空ミサイルシステムS400

ロシアの最新鋭地対空ミサイルシステムS400=2017年8月、モスクワ郊外(AFP時事)

 エルドアン・トルコ大統領は7月24日、米国がF35を供給しない場合、「別の方向に向かう」と述べ、ロシアの最新鋭戦闘機SU35(SU27戦闘機の発展型で、第4世代の戦闘機と、F35のような第5世代戦闘機の間を埋める「過渡期の戦闘機」とされる)も、ロシアから調達する意向を示唆した。

 米国を捨て、ロシアに乗り換えることも辞さない強い姿勢を見せた形だ。

 米国はトルコに対し、対ロシア制裁法に基づく制裁を準備しており、それが発動されれば、トルコがさらに「対露傾斜」を強めるのは必至だ。

 トルコと米国の対立は、エルドアン氏が、2016年7月に発生した同氏暗殺未遂事件の主犯を米国に亡命中のイスラム指導者ギュレン師と断定、身柄の引き渡しを求めたことから始まった。

 米国がシリアで、過激派組織「イスラム国」(IS)を掃討するに当たり、トルコがテロ組織に指定するクルド人勢力を前面に立てて戦ってきたことも両国の関係悪化を深めた。

 トルコは米国と同様、反アサド政権の立場にあり、エルドアン氏は、「テロと戦い、ISと戦う」と公言したが、対IS戦はお茶を濁す程度で、大半をクルド勢力掃討に投入した。

 米国がシリアからの撤退を開始して以降は、トルコが反アサド政権を代表する立場で、アサド政権支持のイラン、ロシアと交渉を進め、非武装地帯の設定などをしてきたものの、それが無視されても何の対抗措置を取ることもなく、ロシアとアサド政権のやりたい放題を見過ごし、クルド勢力掃討のみに力を入れてきた。反アサド政権勢力の代表としては失格だった。エルドアン氏は8月4日、シリア北部のクルド人地区への掃討作戦を発表、5日には、米国に、北部シリアでのクルド勢力への支援停止を求めた。

 エルドアン政権が推し進める、米国との対立やNATOからの離脱、ISヘの中途半端な攻撃、クルド人勢力に対する強硬姿勢、国民と国家のイスラム化、独裁色の強い大統領体制の構築などは、同大統領自身が長年にわたり培ってきた「ムスリム同胞団体質」にあると、エジプトの識者たちは口をそろえて言う。

 同胞団体質とは、「世界のイスラム化」、すなわち、各国にイスラム法を適用させることを通じ、全世界をイスラム化することを「聖戦」とすることだ。

 そのような宗教理念を持つが故に、米国など大国が反対しようが、ものともせず駒を進めている。当面の目標はオスマン帝国の再現とされ、その信念は固く、その旗を降ろすことはない。

 ムスリム同胞団的思考を中心としたトルコとカタール、ハマスとの連携がイランを巻き込み、さらにロシア、中国と連携した場合、中東から後退傾向の米国をさらに追いやり、中東全域のみならず、欧米諸国をも巻き込んだ一大地殻変動を起こす可能性がささやかれている。

 ムスリム同胞団の暗躍は、中東地域はもちろん、世界中で見逃せない。