イラン緊迫、ウラン濃縮は解決にならぬ
イランが核合意に反してウラン濃縮を再開し、中東の緊張が高まっている。米国による経済制裁の回避へ欧州を揺さぶることを狙ったものだが、反発を強める米国との軍事衝突の可能性もある。
核合意の上限を超える
イランは5月、核合意で定めた重水と低濃縮ウランの貯蔵量の制限順守を停止することを表明。今月に入って、ウラン濃縮の濃度でも合意の定めた上限3・67%を順守しないことを明らかにした。既に上限を超えて4・5%まで濃度を高め、5%も視野に入れているという。
核兵器製造に必要な90%には遠く及ばないものの、そのための設備、技術は保有しており、濃度を引き上げることで核兵器開発までの期間も短縮される。核保有の意思がないのであれば、いたずらに緊張を高める行動は慎むべきだ。
核合意は2015年に、当時オバマ政権だった米国を含む国連安保理常任理事国5カ国とドイツの6カ国との間で交わされた。イランによるウラン濃縮など核開発を大幅に制限する一方で、経済制裁を撤廃した。だが、合意は15年間を期限としており、イランの核開発を恒久的に止めるものではない。
米トランプ政権は昨年5月、イランがミサイル開発を進め、イエメン、シリアなどへの影響力を強めているとして合意から離脱。今年5月には、イラン経済の生命線である原油の完全禁輸に踏み切った。
欧州各国、中露は合意の維持を求めている。英仏独は経済制裁の影響を緩和しようとイランとの貿易の新たな枠組みを設けたが、イランの期待に応えるには至っていない。ウラン濃縮の開始は、制裁回避へ英仏独に圧力をかけることを狙ったものだが、国際社会からの理解を得るのは困難だ。
イランは核兵器保有の意思のないことを繰り返し強調してきた。6月にイランを訪問した安倍晋三首相に対し、最高指導者ハメネイ師は「核兵器を製造も、保有も、使用もしない」と明言。「米国は信用できない」と対話を拒否したが、首相とは話し合えると述べている。
日本は原油輸入の8割を中東に依存しており、ペルシャ湾、ホルムズ海峡での緊張は死活問題だ。すでに、日本を含むタンカー6隻が攻撃を受け、イランの関与が疑われている。
米政府は制裁強化をちらつかせ、イランへの圧力を強めているものの、合意を離脱した米国が合意順守を求めても、イランは反発を強めるばかりだろう。
フランスのマクロン大統領は、トランプ大統領、イランのロウハニ大統領と電話会談し、緊張緩和への道を模索している。15日までに対話再開の条件を探るとしているが、解決の糸口は見えない。
日本は「橋渡し役」を
ペンス米副大統領は、親イスラエルの福音派キリスト教徒の会合で、イラン情勢をめぐって「米軍は国益を守る準備はできている」と述べた。大統領選をにらんだ選挙対策という一面もあろうが、強硬姿勢一辺倒では緊張が高まるばかりだ。日本は米イラン間の「橋渡し役」として存在感を示すべきだ。