イスラエル大統領がネタニヤフ首相に組閣要請

対外強硬の右派連立政権へ

 イスラエルのリブリン大統領は4月17日、同月9日に行われた総選挙(定数120)で右派系5党を含め過半数の支持を得たネタニヤフ首相に組閣を要請した。パレスチナ国家が樹立されればユダヤ国家の存立が危うくなるとしているネタニヤフ氏は、強硬な対外政策を取ることのできる右派系連立政権を目指す。(エルサレム・森田貴裕)

中東和平案への対応が課題

 全国1区の比例代表制で行われた総選挙には、約40の政党・政党連合が参加した。ネタニヤフ氏は、外交面などの実績をアピール。安全保障でイランやパレスチナへの強硬姿勢を示し、投票日の3日前には、続投を前提として、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を併合する方針を表明した。

リブリン大統領(右)とネタニヤフ首相

4月17日、イスラエルのエルサレムで、リブリン大統領(右)と握手するネタニヤフ首相(AFP時事)

 一方、候補者名簿提出の締め切り直前の2月21日に急遽(きゅうきょ)結成され、有権者の注目を集めたガンツ元軍参謀総長率いる中道政党連合「青と白」は、パレスチナ問題の解決に向けたアラブ諸国との対話を重視。ガンツ氏は、ネタニヤフ氏の汚職疑惑を批判し、腐敗した政権の交代を訴えた。

 最終結果は、ネタニヤフ氏率いる現与党の右派政党リクードが35議席を獲得。検察当局が収賄などの罪で起訴する方針を表明したことで苦戦が伝えられたネタニヤフ氏だが、トランプ米大統領がゴラン高原に対するイスラエルの主権を認めたことや、ロシアの支援で、37年前の第1次レバノン戦争で行方不明となっていたザハリヤ・バウメル1等軍曹の遺体がイスラエルに帰還したことなどが後押しとなり、逆風をはね返した。

 「青と白」も35議席を獲得して第1党の座を分け合った。連立の枠組みでは、右派や宗教の各政党から成る右派系勢力が計65議席を獲得、イスラエル国会(クネセト)解散前の連立与党の61議席を上回った。中道・左派は計55議席にとどまり、ガンツ氏は敗北を認める声明を出し、連立政権には加わらず、野党筆頭として戦うことを表明した。

 イスラエルでは1948年の建国以来、単独で議席の過半数を獲得した政党はない。大統領が選挙後、他党との連立で過半数の61議席以上を確保可能な政党の党首に組閣を要請する。リブリン氏は、選挙で議席を獲得したすべての政党の代表の意見を聞き、連立が見込まれる右派系6党(65議席)から、最も首相にふさわしい議員としてネタニヤフ氏が推薦を受けた。

 最長42日の連立協議に入る ネタニヤフ氏は、「できるだけ早く安定政権を樹立したい」と表明している。ただ、各党間での確執が既に表面化している。兵役を免除されてきたユダヤ教超正統派市民の徴兵に消極的なユダヤ教超正統派2党と、免除に難色を示す極右政党「わが家イスラエル」の対立などを抱える。極右政党連合「統一右派」からは、トランプ米政権が示す和平を受け入れる政権には加わらないという意見も出ている。

 これまで約13年にわたって政権を率いてきたネタニヤフ氏が続投すれば、7月には首相在任期間が「建国の父」とされる初代のベングリオン氏を抜き、イスラエル史上最長となる。

 イスラエルの連立新政権には、トランプ米政権の中東和平案「世紀のディール(取引)」への対応が課題として控えている。トランプ氏の娘婿であるクシュナー大統領上級顧問が17日、イスラエルの新政権発足後、6月上旬に終了するイスラム教の断食月ラマダン明けに、公表が遅れていた和平計画を発表すると述べた。パレスチナとイスラエルの対立解消に向けすべての当事者に歩み寄りを求める内容だという。クシュナー氏は、「われわれは皆、平和を達成可能にするための合理的な妥協点を探さなければならない」と語った。

 今のところ和平計画にパレスチナが願う国家樹立が提案されているかは不透明だ。

 エルサレム首都宣言や米大使館移転を行い、パレスチナへの支援を停止、縮小するなど締め付けを強めてきたトランプ米政権に反発を示してきたパレスチナ自治政府や、和平案を望まない極右政党を抱えるイスラエルの連立新政権の双方が、今後の譲歩に応じることができるかが注目される。