イラン大統領、就任後初のイラク訪問
イランのロウハニ大統領は3月11日、2013年の就任以来初のイラク訪問を行い、3日間の日程の中で、アブドルマハディ・イラク首相やサレハ大統領、ハルブーシ議会議長、イスラム教シーア派の最高権威、シスタニ師らと会談した。米国が、核合意離脱後、対イラン制裁再発動による政治的・経済的圧力を強める中、イランはかつて一戦を交えた隣国イラクとの友好関係再構築に挑んだ。(カイロ・鈴木眞吉)
経済関係強化で米牽制
シーア派権威とも意見交換
訪問は公式訪問で、サレハ大統領がロウハニ大統領と共に閲兵式に臨み、首都バグダッドのサラム宮殿で歓迎した。
イラクが米国から、イランとの関係を制限するよう圧力を受ける中、公式訪問を受け入れたこと自体、両国が米国からの圧力をはね退けたことを実証したものとみることができる。
国家の実質的責任者であるアブドルマハディ首相との11日の会談で両首脳は、両国間の経済関係強化を図り、貿易の拡大や両国間の鉄道建設に関する契約書に署名した。天然ガスや電力などのエネルギー分野や金融分野での協力関係強化への姿勢も示した。
ロウハニ大統領はマハディ首相に「米国が不正な制裁をイランに科しているこの時こそ、米国に立ち向かい、両国関係を発展させたい」と語り、過激派組織「イスラム国」(IS)により荒廃したイラクの復興を支援することを通じ、米国に対抗していく姿勢を鮮明にした。米トランプ政権を牽制(けんせい)した形だ。
イラクにとってイランは、天然ガスや電力などの貴重なエネルギーを供給してくれる、トルコに次ぐ貿易相手国で、今回両国は商業関連ビザを双方が無料で発給することでも合意した。
一方イランにとっては、イラクは原油以外の車や食料などの輸出先としては、中国を上回る貿易相手国になっており、米国からの経済制裁の打撃を回避させる国家とすべく、今後も大いに輸出拡大を図りたい国だ。イラン・メディアによると、両国間の貿易総額は年間で約120億㌦(約1兆3400億円)に上る。
サレハ大統領との会談では、両国間の貿易拡大問題を中心にしたとしながらも、サレハ氏は、イランがイラクの対テロ戦を支援してくれたことに謝意を表明するとともに、今後も継続的な支援が必要であることを強調、そのためにも今こそ経済協力強化が必要だと指摘した。また「イラクを今後決して国際紛争の舞台とするわけにはいかない」とも主張した。それに対しロウハニ大統領は、「両国の関係は数千年に及ぶ」と応じ、さらなる協力拡大に意欲を示した。
一連の会談の中での一つの山場は、シスタニ師を含む4人の著名なイスラム指導者との会談だったようだ。イランは、同じシーア派住民が多数を占めるイラクと、シーア派の流れをくむアラウィ派が政権を握るシリア、シーア派民兵組織ヒズボラ(神の党)が政治的実権を掌握するレバノンに至る「シーア派の孤」の確立を狙っているからだ。
イラク・メディアによると、シスタニ師は、強硬派のアフマディネジャド・イラン前大統領や、イラン革命防衛隊のカセム・スレイマニ司令官との会談は拒否したが、ロウハニ師とは13日、ナジャフで会談した。ロウハニ師が、穏健で実務的とみなしてのこととみられている。
ロウハニ師が、シスタニ師に、今回会談したイラク高官らとの一連の会談の結果を報告、両国間の合意や今後の関係強化について説明したのに対し、シスタニ師は、両国がお互いの国の利益を基本にしながら、お互い内政干渉することを避け、それぞれが国家の主権を尊重しつつ関係発展を目的に努力したことを歓迎した。
一連のシスタニ師の発言からは、シーア派革命の輸出を掲げて、近隣諸国への影響力拡大に躍起になりがちなイランの姿勢と一線を画す姿勢も見え隠れする。