北の密輸網を放置する日本
国連北朝鮮制裁委員会元専門家パネル委員 古川勝久氏(下)
国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが最近、年次報告書を公表したが、注目点は。
深刻な制裁逃れの手法として主に3分野ある。一つは、海運・企業ネットワークを用いた密輸の巧妙化。二つ目は、世界規模の資金洗浄の継続。三つ目は、サイバー攻撃による巨額の外貨奪取だ。一度のサイバー攻撃で約90億円を強奪した事件もある。北朝鮮には合法的な外貨獲得手段がほとんど残されておらず、犯罪による外貨獲得を深化させている。
北朝鮮はどのように制裁を逃れているのか。
昨年インドネシア沖で摘発された北朝鮮による石炭密輸未遂事件では、インドネシア、ロシア、韓国、香港の企業が関与していた。密輸ルート上の国の数を増やし、隠蔽(いんぺい)の層を厚くしている。対する国際社会は協力体制が不十分で、北朝鮮はその間隙を突く。
日本国内にも大きな抜け穴がある。例えば、2017年4月に北朝鮮の会社は、日本国内の企業が所有していた貨物船を調達した。この日本企業の代表取締役は、北朝鮮とのつながりが深い。
昨年、北朝鮮が最新型高級乗用車を不正調達した際には、別の日本企業の密輸ルートへの関与が疑われている。この企業も以前、対北朝鮮不正輸出事件で名前が浮上していた。
平壌では大量の日本製品が出回っている。日本は北朝鮮の密輸ネットワークに組み込まれているが、取り締まりは著しく不十分だ。日本政府は必要な法整備を怠ってきた。その責任は極めて大きい。
北朝鮮制裁はもっとやれることがあるはずだが、それを全力でやれば、北朝鮮を追い詰めることはできるか。
難しいと思う。北朝鮮にとって密輸や資金洗浄は国民的習慣に等しい。経済封鎖下にあるはずの北朝鮮国内で、物価や外貨レートがなぜか安定している。依然、大規模に密輸や外貨獲得が行われているもようだ。
経済状況が悪化しても、政治的指導者が軍を押さえ続ける限り、体制を継続できる。金正恩朝鮮労働党委員長は、治安機関を通じて軍部をコントロールしており、体制転覆の兆候はない。最悪の場合、人民の生活を犠牲にして、軍部と治安機関の上層部を押さえるための資金さえ確保すれば、政権は覆らない。ベネズエラのマドゥロ大統領が典型例だ。
日本国内には依然、制裁強化で北朝鮮は降参するとの期待が強いが、制裁で相手を苦しめても、絶命はできない。制裁の目的は、相手を交渉のテーブルに引きずり出すことだ。交渉を支えるツールとして、制裁をしっかり履行することが重要だ。
韓国は開城工業団地などの再開に前向きだ。
文在寅政権は、南北交流事業を簡単に国連制裁の例外適用にできると考えているが、これは誤りだ。
安保理では、対北朝鮮人道支援事業に対する国連制裁の例外適用すら容易ではない。事業実施者は、北朝鮮国内に持ち込むすべての物品をリスト化し、個々のスペック、用途、譲渡先など細かな説明を付けて、安保理に制裁の例外適用を申請する。安保理は、例外適用の可否を個別物品ごとに判断する。
開城工業団地は経済プロジェクトで、大量の物資が搬送される上、北朝鮮に対する金融制裁や技術供与禁止などの制裁措置も絡む。これらを審査するのは実務的に不可能だ。
南北交流事業の再開には、安保理決議の変更による制裁緩和しかない。韓国政府は国連制裁の現実を踏まえるべきだ。
(聞き手=編集委員・早川俊行)











