イスラエル治安機関が大規模テロ計画を阻止

ハマス、西岸に実働部隊

 イスラエル国内治安機関シャバク(シンベト)は22日、イスラエルの民間人を標的とした大規模な爆弾テロ攻撃計画を阻止したことを発表した。ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスが、ヨルダン川西岸地区にテロ攻撃を計画し実行するための実働部隊の基盤を確立しようとする計略が明らかとなった。(エルサレム・森田貴裕)

通信にガザの患者を利用

 シンベトの調査によると、ガザ地区のハマス上級幹部らが、暴動をガザ地区だけでなく、西岸地区にも拡大させるため、爆弾の製造や使用方法など攻撃の準備訓練を受けたハマスメンバーに、イスラエル民間人を標的としたテロ攻撃をできるだけ早く実施するよう圧力をかけていたという。

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10月19日、ガザ地区南部のイスラエルとの境界線近くで、タイヤを燃やすなどして地区の封鎖に抗議するパレスチナ人=UPI

 ガザ地区の居住者には、救命救護のためイスラエルの病院に入る権限が与えられている。ハマスは西岸地区でテロ活動を行うために、この人道的手段を利用した。シンベトによると、今回が初めてではないという。ハマスは、人道的な理由から治療のためイスラエルへの入国許可を得ているガザ地区に居住する患者だけでなく、西岸で事業を行っている者などにメッセージを渡すよう要請し、これらを介して西岸地区のハマスメンバーと通信しているという。

 今回明らかとなった爆弾テロ攻撃計画の主要な実働ハマスメンバーは8月23日に逮捕された。既に逮捕された西岸南部ヘブロンの南西部ドゥーラ市居住のパレスチナ人、オウェズ・ラジョーブ(25)の自供によると、それまでも多くの友人や家族たちと共にイスラエルへのテロ攻撃を計画していたという。

 今年6月に行われたイスラム教の断食期間であるラマダン直後、西岸でテロ攻撃の実働メンバーを募集していたガザ地区のハマス活動家がラジョーブと接触。ハマスのメンバーになるならば遠隔操作爆弾を製造するための材料を送ってもよいという話を持ち掛けたという。

 その後の8月11日、ラジョーブは西岸中部の都市ラマラにあるドラッグストアで主要な通信手段として携帯電話を受け取るよう活動家から指示があった。その数日後には、ベツレヘム地域のハマス活動家と会い、携帯電話を使用するためのパスワードと追加情報を受け取るよう指示を受けた。

 次いで、治療のためにイスラエルに入国した高齢のパレスチナ人女性に会うよう指示を受け、その女性から渡されたズボンの中に隠されたファイルを受け取った。そして、送られてきた爆弾専門家のビデオを通じて、爆薬の製造トレーニングを開始した。

 その後、他に実働メンバー2人を募集し、爆弾の製造に着手したラジョーブは、9月末までに爆弾製造を完了させ、10月上旬までにグリーンライン(1949年停戦ライン)内のイスラエル人が多く集まり混雑するようなショッピングモール、ホテル、路面電車やバスなどで、爆弾テロ攻撃を実行するよう指示されていた。シンベトによると、西岸でこれまでに使用されてきた爆薬ではない最新の爆薬を準備していたという。

 シンベトは2018年、6月までの時点で250件に上るテロ攻撃を未然に防いでいる。17年には、480件のパレスチナ人によるテロ攻撃を阻止。さらに、1100件に及ぶ「ローンウルフ(一匹おおかみ)」型テロ攻撃をも防いだ。

 イスラエルとハマスはエジプトなどを仲介として停戦合意に至ってはいるが、これまで同様に一時的なものとみられ、本格交渉に至っていない現状では、今後も治安状況は不安定な状態が続く。イスラエル国家の殲滅(せんめつ)を旗印とするハマスなどイスラム根本主義過激派は、断続的にイスラエルへのテロ攻撃を仕掛けるものとみられている。