イラン制裁、核開発阻止への包囲網構築を


 米政府は、原油の禁輸などイランへの経済制裁を再開した。2015年の核合意で解除された制裁はすべて再開され、制裁違反に対する罰則も盛り込むという徹底ぶりだ。米国とともに核合意に参画した英仏など5カ国は強く反発しており、関係国間の亀裂が一層深まるのは必至。イランの核・ミサイル開発阻止へ国際的包囲網の構築を目指すべきだ。

原油の輸出禁止を科す

 米国は8月に自動車、貴金属などを対象とした制裁を再開。第2弾となる今回の制裁で、イランを国際金融システムから排除するとともに、イラン経済の大きな柱である原油の輸出禁止を科した。

 これに対してイランは「戦争状態」(ロウハニ大統領)と徹底抗戦の構えだが、経済的困難に直面していることは確かだ。通貨リアルは急落し、物価の暴騰で国民の不満も強まっている。各地で反体制デモが発生し、社会の動揺にもつながっている。

 国際通貨基金(IMF)は、制裁の再開でイランの2018年実質成長率はマイナス1・5%、19年はマイナス3・6%になると予測。原油輸出もすでに減少していることが伝えられており、禁輸の実施でイランはさらに窮地に追い込まれた。

 米国は核合意離脱の理由として、核保有阻止への措置が不十分、ミサイル開発を制限できないことなどを挙げている。また、イランはシリア内戦に介入し、レバノン、パレスチナ、イエメンの武装組織に資金、武器を供給するなど地域の安定を損ねている。制裁解除で入手した資金が「テロ支援」に向けられていると米国は非難する。

 世界の金融システムを牛耳る米国による制裁が大きな効果を持つことは確かだが、米国一国の対応だけでは限界がある。

 核合意に参画した英仏独中露は、核合意の維持を主張し、制裁再開に反対。欧州連合(EU)は、金融制裁を回避するための新システムの構築を模索している。イランの原油やイラン産品の決済を担うためのものだ。また、イランに進出していた欧州大手企業の多くが、米国による制裁を恐れて撤退しており、それら企業のイラン投資を後押しする狙いもある。

 イランの核・ミサイル開発とテロ支援の阻止で、欧米各国は一致している。日本政府も同様の立場で、菅義偉官房長官は「(核合意を)一貫して支持してきた」と、欧州に歩調を合わせる意向を表明した。

 日本、中国、韓国など8カ国・地域が原油禁輸の適用除外とされたものの、180日という期間限定であり、イランとの良好な関係を築いてきた日本にも今後、影響が及ぶ可能性がある。

 米国の強硬姿勢の背景には、イスラム聖職者が支配するイランの政権転覆の狙いがあるとの見方もある。周辺地域に一時的な混乱を招くものの、親米政権を築ければ、地域への米国の影響力は大幅に増す。

米国単独では難しい

 しかし、欧州各国との連携がなければイランの核開発を阻止することは困難だ。米国は単独行動の限界を認め、西側同盟国との連携を視野に入れたイラン封じ込めへと舵(かじ)を切るべきだ。