米、パレスチナ難民機関への拠出停止

 トランプ米政権は先月31日、既に大部分を凍結している国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出を停止すると発表。一方で、国連や難民受け入れ国などと、パレスチナへの直接支援を含む「新しいアプローチ」について協議する方針を示した。イスラエルは米政権の政策を歓迎。パレスチナ側は反発を強めている。
(エルサレム・森田貴裕)

和平交渉再開へ圧力
ガザの人道危機に懸念も

 パレスチナ自治政府のアッバス議長の報道官は、「パレスチナ人に対する凶悪な攻撃であり、国連決議に反する」と反発。パレスチナ解放機構(PLO)幹部のアシュラウィ氏は、「平和の可能性を破壊している。最も無責任な決断だ」と批判。米国とイスラエルは「報いを受ける」だろうと警告した。

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8月30日、ヨルダン川西岸ベツレヘムにあるドヘイシャ難民キャンプの女学校。UNRWAが支援金で運営している(UPI)

 米国とイスラエルは、パレスチナ難民の数を大幅に膨らませ、パレスチナ難民問題を永続させているのはUNRWAだと主張する。

 イスラエルのネタニヤフ首相は2日、「重要な変化だ。私たちは支持する」と歓迎した。ネタニヤフ氏は、70年前にパレスチナ難民を吸収するのではなく永続させるためにUNRWAという独特の組織がつくられたと主張。ついにパレスチナ難民の永続問題の解決が始まったとして米政権の政策の変化を大歓迎した。支援金は本当に難民の社会復帰を助けるために使われるべきだと訴えた。

 UNRWAは、1948年のイスラエル建国に伴い発生した第1次中東戦争(独立戦争)で故郷を追われた約70万人のパレスチナ難民を救済する目的で1949年に設立された。以後、難民に対し70年間にわたり教育や保健、食糧の支援などを実施してきた。失業率が5割にも上るパレスチナ自治区ガザ地区では、パレスチナ難民を現地職員として採用も行っている。

 支援の対象となるパレスチナ難民は、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区やガザ地区、さらにヨルダン、レバノン、シリアなどの周辺諸国にも住んでいる。現在、パレスチナ難民の子や孫の世代を含め500万人以上がUNRWAに登録されているという。

 UNRWAによるパレスチナ難民の地位の定義は他の一般的な難民とは異なり、故郷を追われた当事者だけでなく、その子孫も難民として認定されるため、パレスチナ難民の数は今も増え続けている。

 UNRWA最大の資金拠出国である米国は昨年、約3億6000万㌦(約400億円)を拠出している。しかし、トランプ米政権は1月に拠出金の一部を停止。UNRWAに対して繰り返し不満を表明し、UNRWAの事業そのものがパレスチナ難民問題を永続化させ難民危機を悪化させていると指摘した。事業を改善させるには、登録されたパレスチナ難民の数を現行の10分の1に減らす必要があると主張している。

 拠出金を停止したトランプ政権には、イスラエルとの和平交渉に応じるようパレスチナ側に圧力をかける狙いがある。UNRWAを解体し、難民問題を消滅させることで和平交渉をイスラエル側に有利に進めたい狙いがあるとも指摘されている。

 拠出金の全面的な停止は、パレスチナ難民の生活環境を悪化させ、パレスチナやイスラム諸国の反発を招くことになり、住民の約7割がパレスチナ難民として登録されているパレスチナ自治区ガザ地区では、人道状況のさらなる悪化が懸念される。

 イスラエル紙イディオト・アハロノトで、イスラエルの軍事ジャーナリストであるロン・ベン・イシャイ氏は、UNRWAへの経済的圧力は、パレスチナ自治区ガザ地区において、非常に深刻な人道危機を引き起こすと指摘する。イシャイ氏は、パレスチナ人に代替的な収入源を与え、パレスチナ人が補足的な経済活動を実施できるよう、UNRWAから受け取る支援金は、3、4年かけて徐々に削減する必要があるとしている。さもなければ、支援金の削減による人道状況の悪化に伴い、ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスが地域で紛争を始める可能性があり、ヨルダン川西岸地区でも紛争が勃発すれば、再び大規模なインティファーダ(民衆蜂起)にもつながりかねないと警告する。