エジプト大統領選、シシ氏が再選
投票率アップへあの手この手
3月26日から3日間行われたエジプト大統領選の結果が4月2日に発表され、シシ大統領が有効票中97%を獲得、再選された。有力対抗馬のいない選挙で政府は、投票率を上げようとあの手この手の動員策を講じたが、前回選挙を下回る41・5%にとどまった。シシ政権の当面の課題は、通貨下落で悪化した国民生活の向上だ。(カイロ・鈴木眞吉)
公務員、民間企業を動員
課題は国民生活の改善
取材を進めて最初に驚いたことは、意外にも多くの国民が投票に訪れていたことだ。もちろん、ムバラク政権崩壊後、盛り上がりを見せた2012年のモルシ前大統領誕生時のような行列には及ばないものの、投票所の外部にまで列ができていた。有力な対抗馬もなく、2期目でもあることから、ムバラク大統領時代の閑散とした投票所風景を予想していた記者にとっては驚きだった。
第2に驚いたことは、兵士が物々しく投票所入り口を固めていたことだ。ムバラク元大統領時代でさえ見られなかった厳重さで、砂嚢(さのう)を積み重ねた陣地で兵士が銃口を通りに向け、建物の上でも別の兵士が銃を構えていた。
投票日を2日後に控えた3月24日に第2の都市アレクサンドリアで発生した爆弾テロ事件も、厳重な警戒を促したものとみられる。まさに「軍に守られた選挙」だった。
第3に驚いたことは、有権者が投票所入り口に近づくと、スピーカーからテンポのよい曲が流れ、それに合わせて、婦人たちが踊りだすのだ。ほとんどの有権者が小さな国旗を手にして訪れ、婦人たちも国旗を振りながら踊っている。選挙をお祭り気分で盛り上げようとする、政権側の意図があったものとみられる。
マスメディアの動員も投票率アップの一つの方策と思われる。国民の9割を占めるイスラム教スンニ派の総本山、アズハルのグランドイマム(最高指導者)のタイエブ師や、人口の1割を占めるコプト教(エジプトのキリスト教)の教皇、タオドロス2世、議会議長ら政界関係者らが投票する様子を次々に放映、シシ大統領の投票の様子も大々的に放映された。
ただ、気になる話も漏れてきた。官庁や国営企業では、上司から必ず投票に行くよう命令があり、投票の証しとしての指にインクが付いているかどうかをチェックされるという。民間企業では、社員が投票に出向いたかどうかを後日確認し、行かなかった社員の給料から、もしくはIDカードや運転免許証の更新時に、500ポンド(約3000円)が差し引かれるという。ペナルティーの話は先回もあったが、徴収方法まで明示されたのは今回が初めてという。
さらにショックだったのは、投票所前で国旗を掲げて踊っていた婦人たちは、お金をもらっていたとのうわさが流れていることだ。
このような努力にもかかわらず、投票率が前回選挙の47・5%を下回ったのは、有力な対抗馬の不在が影響したものとみられる。無効票が7・2%もあったのは、命令を受けて嫌々行った人々のささやかな抵抗だったのかもしれない。
最近、シシ政権への批判が高まっていることの一つが、軍による経済権益への進出。例えば駅前に軍の大型車が現れ、安い値段で肉や野菜を売り出したりしている。つい最近は、シナイ半島の治安不安を理由にスエズ市周辺の漁民の漁を禁止した。スエズ市場関係者によると、市場には現在、一切生魚はなく、中国産の冷凍食品で埋め尽くされているという。
ただ、国民の大半は、内戦に陥った周辺国の惨状を目の当たりにして、国家の安定を最優先させている現政権を支持しているようだ。問題は、国際通貨基金(IMF)が求めていた固定相場制から変動相場制への移行に伴うポンドの大幅下落が、国民生活を直撃したことで、「中間所得層が一気に貧困層になった」現状をいかに改善するか、第2期目を確実にしたシシ大統領は、国民の経済状況の好転への具体策を求められている。











