平昌五輪で訪問の北幹部、韓国に協力基金拠出迫る
2月の韓国・平昌冬季五輪で応援団一行に交じり密(ひそ)かに訪韓していた孟京一(メンギョンイル)・統一戦線部副部長が滞在中、韓国側と非公式会談を重ね、国連をはじめとする国際社会の北朝鮮制裁が強化される中で執行が難しい「南北協力基金」からの拠出を迫っていたことが分かった。北朝鮮情報筋が5日、本紙に明らかにした。韓国・文在寅政権は五輪期間中、一部制裁を融和ムードに沿った「例外的措置」を理由に解除しており、北朝鮮は文政権の足元を見て高圧的な態度に出た可能性がある。(編集委員・上田勇実)
首脳会談の条件? 制裁破りを誘導
孟氏は開会式2日前の2月7日に韓国入りし、閉会式翌日の26日に北朝鮮に戻ったが、当初、韓国側も北朝鮮側も孟氏の訪韓事実を伏せていたため、その訪韓目的に関心が集まっていた。
同筋によると、孟氏は北朝鮮の武力挑発路線とこれに対抗する韓国の対北強硬政策で南北間の交流・協力が冷え込んだ李明博・朴槿恵両政権で基金の執行が低調だったことを指摘し、その余剰分を北朝鮮への支援に充てるよう迫ったという。
韓国統一省によると、李・朴両政権の9年間(08年~16年)に造成された基金総額は、第2回南北首脳会談を実施した盧武鉉政権5年間(03年~07年)の造成額の80%に相当する約4兆3000億ウォン(約4300億円)に達したが、執行額は約1兆5000億ウォン(約1500億円)にとどまり、多額の余剰金が発生していた。
韓国メディアによると、孟氏は滞在中、韓国の金相均・国家情報院第2次長と頻繁に会い、南北首脳会談について協議したという。「長く統一戦線部で南北経済協力を担当してきた」(同筋)だけに韓国に首脳会談の条件として制裁破りにつながりかねない経済支援を誘導しようとした可能性がある。
これまで韓国青瓦台(大統領府)は国際社会の対北制裁強化を理由に首脳会談の議題に経済協力を取り上げるのは難しいとして一線を画している。ただ、文政権の統一外交安保特別補佐官を務める文正仁・延世大学名誉教授は先日、早稲田大学での講演で「第2回首脳会談時に合意した48項目のうち約20項目は制裁違反にならない」との認識を示し、経済協力に前向きな姿勢を見せた。
韓国政府が昨年末に計上した南北経済協力基金の予算総額は約9600億ウォン(約960億円)。このうち約29億ウォン(約2億9000万円)はすでに北の五輪・パラリンピック滞在費を肩代わりする形で支出されている。