和平交渉への影響は不透明、トランプ大統領のエルサレム首都承認
トランプ米大統領が6日、エルサレムをイスラエルの首都と認める宣言をした。イスラエル側は歓迎したが、パレスチナ側には怒りが広がっている。パレスチナの各地では、デモ隊とイスラエルの治安部隊が激しく衝突。和平交渉への影響をめぐっても、イスラエル、パレスチナ双方で賛否の声が上がっている。(エルサレム・森田貴裕)
「再開へ弾み」と期待 イスラエル
米の仲介拒否を表明 パレスチナ
イスラエルのネタニヤフ首相は「歴史的な日」としてトランプ氏の宣言を称賛。エルサレム旧市街では、城壁に米、イスラエル両国国旗を映し出すなど歓迎ムードだ。
統一会派「シオニスト連合」のバール国会副議長は宣言を受けて、「凍結している和平交渉にひびが入り、和平交渉が再開されることを期待する」と和平推進への弾みとなることに期待を表明した。
イスラエルは1948年の建国直後の第1次中東戦争で西エルサレムを獲得。67年の第3次中東戦争(6日戦争)で、世界の主要一神教のユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地がある旧市街が位置する東エルサレムを占領。エルサレム全域を首都と定めた。
1993年に米国の主導によりイスラエルとパレスチナの間で結ばれた「パレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)」では、エルサレムの最終的な帰属は和平交渉の中で協議するとされている。
一方のパレスチナは、占領地からのイスラエル軍の撤退を求め、将来の独立国家の首都は東エルサレムになると主張している。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は6日、エルサレムは「パレスチナ国家の永遠の首都」と強調。「今後米国が和平を仲介することはできない」と米国の和平交渉への関与を拒否する姿勢を明らかにした。だが、米国以外の交渉仲介は事実上、不可能とみられ、パレスチナの対応が交渉の行方を大きく左右する可能性がある。
米政府は、クシュナー上級顧問に中東和平交渉の推進を委ねており、中東の大国サウジアラビアを通じて、パレスチナ自治政府にも交渉再開へ働き掛けを強めている。米紙ニューヨーク・タイムズの報道によると、自治政府に突き付けられた条件は、パレスチナに厳しく、米国による首都承認が今後、交渉にどのような影響を及ぼすかは、今のところ不透明だ。
自治政府のイスラエル交渉委員会メンバーで元スポーツ相のタハニ・アブダッカ女史は9日の電話取材で、「トランプ氏に首都を決定する権利はない。国連安全保障理事会だけが決定できる」と一方的な承認を非難。「10年以上、東西エルサレムの紛争を治めるため努力を重ねてきたが、トランプ氏の発言で、平和の首都エルサレムが紛争の首都になってしまった」と、抗議行動の拡大に懸念を表明した。
その上で、「和平交渉に向けて、パレスチナ側で準備していた全てのことが無駄になってしまった」と和平交渉に悪影響が及ぶ可能性を指摘。「エルサレムをパレスチナとイスラエルの2国家共通の首都だと言える者が仲介役にふさわしい」と、エルサレムを首都と宣言した米国の仲介者としての資格に疑念を表明した。
各地で抗議デモが行われていることについては、「これは宗教の問題ではなく、占領の問題だ」と強調。イスラム根本主義組織ハマスがインティファーダ(民衆蜂起)の呼び掛けを行っていることについて、「インティファーダが行われるとすれば、イスラム教徒やキリスト教徒を含む全てのパレスチナ人の意思で行われるだろう」とパレスチナの一体性の重要性を訴えた。