エジプトで最大規模のテロ、イスラム宗派間対立が顕在化

 イスラム教対他宗教の対立、スンニ派とシーア派の宗派間闘争が顕在化している。しかし、イスラム指導者の中に、聖典コーランやイスラム法などのイスラム教自体が抱える問題として自覚し、責任を痛感する人物は少なく、西側世界に責任を転嫁することも多い。(カイロ・鈴木眞吉)

カタール、レバノンにも波及

 宗派内での内部闘争が顕在化した好例の一つは、24日、エジプト・シナイ半島北部で発生した過激派組織「イスラム国」(IS)系武装集団によって引き起こされた、モスクでの爆弾・銃撃テロ事件だ。同国史上最大規模の305人が死亡、負傷者は128人に達した。襲撃されたモスクは、スーフィーと呼ばれるイスラム神秘主義者が多く集まる場所とされ、スンニ派超保守であるISからすれば、偶像崇拝に当たる聖者信仰を持つ異端者で、機関誌などで攻撃も辞さない姿勢を見せていた。

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25日、エジプトのシナイ半島北部アリーシュで、襲撃されたモスク(イスラム礼拝所)前の道に放置されたままの焼け焦げた車(AFP=時事)

 宗派間の戦いの典型例はサウジアラビアとイランとの戦いだ。サウジはスンニ派盟主を自任、シーア派盟主を自任するイランによる中東スンニ派諸国への「シーア派革命輸出」の動きに対峙(たいじ)し、一歩も譲らない。それがイエメンでのシーア派フーシ派とスンニ派ハディ暫定政権との内戦として表面化、泥沼の状態に陥っている。

 その延長線上に、イランとの関係を維持するカタールに対する、アラブ諸国による断交問題が勃発、さらには11月初旬、宗教宗派のモザイク国家レバノンに波及、ハリリ・レバノン首相が、サウジで辞任を表明する事態を招いた。同首相は、父親のラフィーク・ハリリ元首相を暗殺したとされるイラン系イスラム教シーア派過激派民兵組織「ヒズボラ(神の党)」が、暗殺を計画しているとして身の危険を察知、国際社会に訴えたのだ。

 ヒズボラの本質は「イラン・シーア革命輸出の先兵」で、イランの影響力拡大に専念している。

 他宗教に対する攻撃は、ISによるイラク北部のヤジディ教徒や、エジプトのコプト教会に対する度重なる襲撃事件などとして表面化。イラクとシリア、エジプトではキリスト教徒が激減した。コプト教一色だった7世紀のエジプトが歴史的にイスラム化されていく過程でのイスラム教徒による仕打ちがいかに残虐であったかを、コプト教徒は最近、無念の思いをにじませながら記者に語った。現在のエジプトの歴史教科書では、一切、触れられていない。

 ISやアルカイダ、ヒズボラ、ボコ・ハラム、イランなど、イスラム過激派勢力の主要な問題点の一つは、聖典コーランの言葉を神からの啓示として絶対視し、固執、他宗教・宗派を排斥する排他性だ。コーランのイムラーン家章85節には、「イスラーム以外の教えを追求する者は、決して受け入れられない。また来世においては、これらの者は失敗者の類である」とあり、イスラム教だけが正しいとの独善性を主張している。 イランのホメイニ師は1989年、小説「悪魔の詩」の著者、サルマン・ラシュディ氏と出版関係者に死刑を宣告、日本語訳した五十嵐一筑波大助教授が暗殺された。

 米紙ワシントン・タイムズによると、40年後には欧州人口の半数以上がイスラム教徒になるという。

 エジプトでのテロを受け、あるエジプトの新聞社の社員らは「スーフィーだから」と語り、是認する雰囲気すらあるという。

 イスラム指導者は、コーランの現代的解釈を試み、イスラム教徒が独善・排他性を廃し、他宗教・宗派と共存する寛容さを持てるよう指導する責任がある。英国国教会の・中東・北アフリカ主教、ムニール師は、「イスラム指導者は総じて、イスラムが批判されることに、あまりに敏感過ぎる」と語り、苦言を呈した。